1999 SPRING vol.58
 現在、日本のゴルフギアマーケットで、ジュニア用のギアの占める率は決して大きくはない。それも原因して、通常のクラブやキャディバッグは、ジュニアが気軽にゴルフを始めるには高価すぎると言っても間違いではない。また、特にクラブでは種類やバリエーションが少なく、ジュニアが自分に合ったクラブを見つけることも容易ではなかった。しかし、ジュニア用のプレー料金を設定しているゴルフ場が増えているように、ジュニアに適した価格のゴルフギアを開発・販売するメーカーが目立ちだした。
 その一社である外資系クラブメーカーA社は、開発のコンセプトをこう話してくれた。
「以前に弊社の契約プロにジュニア時代のゴルフギアについて訪ねたところ、やはりほとんどの選手が大人用のクラブのシャフトを短く切って使用していたそうです。しかし、彼らからは『幼少時代に体に合ったスイングを覚えることは非常に重要であり、大人用のクラブの長さだけを変えたものでは、それは実現しにくい』とアドバイスされ、ジュニアゴルファーに合ったギアを作るようになりました」。基本概念は『体にやさしいスイングができるように』。子供の成長は非常に早いため、一つのモデルを作るだけではジュニアゴルファーを全体的にカバーすることは不可能だ。そこで同社は5歳から13歳をターゲットとし、身長に合わせて3つの長さのクラブを製造した。さらに単品販売はもちろん、ウッド、アイアン、パター、キャディバッグ等を適価でセット販売する方法も採用した。「残念ながら日本ではジュニアゴルフが盛んとはいえません。一人でも多くのジュニアにゴルフを楽しんでもらうためには様々な施策に積極的に取り組む必要があると思います。その最初の手段として、価格を抑えることから始めたのです。願わくば近い将来、ギアはもちろんのこと、プレー料金やゴルフ練習場の料金も低廉化されればと思います。それが最終的に日本のゴルフの発展につながることだと弊社では考えています」。
 ジュニアゴルファーの育成はこれまでも各ゴルフ関連団体で様々な施策がなされてきたが、特に重要視され始めたのは、近年のことだ。しかし、B社では、今から25年以上も前にジュニアゴルフギアの開発を開始していた。この理由について同社の広報担当者は、「当社のコンセプトは、全てのゴルファーに対応できるギアを開発することです。もちろん当然ながらその中にジュニアゴルファーも含まれています」と語る。そして、特にジュニアギアに関しては、成長著しい子供たちの体格や体力にあわせ使いやすさを重視しているという。先に挙げたA社と同様に、クラブは身長に合わせて3つのモデルを用意。本年4月には人気モデルのラインナップの一つとして本格的なジュニア用クラブが誕生した。さらに、「下取りサービス」で費用的な問題もカバー。このサービスは、子供の成長に伴う買い換え(身長が伸びて現在使用のクラブが適さなくなった場合など)の際に、以前まで使用していたクラブをB社が下取りし、新しいクラブの購入に役立てるというものだ。
 メーカー側も、ゴルフクラブ購入の費用的問題は十分に認識している。その中で徐々に価格は低下し、便利なサービスも誕生していることは、ユーザーにとっても耳寄りな情報である。
大手ゴルフメーカーの事業は、ギア開発だけではない。ゴルフスクールやジュニアレッスン、そして大会協賛などでもジュニアゴルファー育成に寄与している。
 C社はウッド、アイアン、パター、キャディバッグなど一連のジュニアゴルフギアを販売する傍ら、各練習場で主催しているゴルフスクールの中にジュニア向けプログラムを設定し、指導に当たっている。「若年人口の減少は、将来必ずゴルフマーケットの縮小というかたちで我々に跳ね返ってきます。そのためにもジュニアゴルファーを支え、ユーザーを増やしていかなければなりません」とC社の広報担当者。さらに「ジュニア用商品の開発と併せて、ゴルフ場やゴルフ練習場へのジュニアに対するバックアップ体制を心がけています。また、子供たちの憧れとなるような若手スターも育成していかなければ、ゴルフ人口は増加しないと思います」と、幅広い視野を持った意見を述べてくれた。
ゴルフメーカーによっては、自社のコンセプトとユーザーの要望が必ずしも一致しない場合がある。
 D社は過去に初心者向けのジュニアギアを販売していたが、ユーザーからは競技志向のジュニアギア開発を望む声が多くあがり、製造を中止したと言う。これは、当時のジュニアゴルファーを持つ両親のゴルフに対する感覚を象徴しているような現象ではなかろうか。つまり子供のうちからクラブを購入してゴルフをプレーするからには、競技大会等で高度な技術を発揮できるプレーヤーにさせたい、という思いが強かったのだろう。しかし現在はそういった考えとは別に、ゴルフは「競技に関わらず、気軽に誰もがプレーできるスポーツ」としても認識されつつある。まして「親と子で楽しむゴルフ」である。残念ながらD社はギア製造を中止したままであるが、ゴルフ場のジュニア教室へゴルフ用具の提供などを行っている。「限られたジュニアゴルファーを強くすることと、裾野を広げることは別の方策だと思います。長期的活動として、後者を実現できるように、業界全体で考えていかなければならないと思います」とD社担当者は語ってくれた。

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