「耐えるゴルフをしよう」と思っていた伊藤だが、肝心な場面でボギーが出た。3番ホールも伊藤のボギーで宇佐美に勝ちを与え、10、16番ホールも、downしたのは同じくボギーだった。
「15番ホールで、5メートルのバーディーパットを入れて2upにできたのは、その前の14番で、お互いバーディーで分けられたことです。あの3メートルのパットが入ってくれて、流れが少し変わった気がします」
日曜日とあって、ふたりの組を観戦するギャラリーが続々と増える。13歳とは思えない落ち着いたプレー。ゲームマネージメント。その伊藤の粘り強さを上回る宇佐美の技量。この1年あまり「トレーニングで体を追い込んだ」という宇佐美
の背中は、1年前よりもはるかに大きくなっている。
フェアウェイに、ふたりの選手が残った。
ちょうど決勝マッチの前半が終わって、インターバルをとっているとき、3位決定戦の決着がついた。川村昌弘が3upで勝利した。
コース全体は、静まりかえっている。その中で、決勝マッチを戦っているホールだけが、熱く燃えていた。2番ホール、マッチ20ホール目で伊藤が獲る。必死に食い下がる。負けん気の強い選手。彼は、諦めない。マッチ22ホール目。宇佐美が、すかさず奪い返す。4up。
宇佐美は、2002~03年。ジュニ競技を総なめにした選手。いまのジュニア選手ブームの先駆け的存在で、石川遼をはじめ、その宇佐美に憧れて杉並学園へ入学した選手も多い。世界ジュニア2回出場するなど国際的舞台での活躍が多い。
とはいえ、ここ数年、宇佐美の勝ち星はなかった。
「お前が優勝候補」と常に注目され続けて、その重圧に押された時期もあった。海外でいい成績を残し、国内で、惜しくもという試合が多かったのは、こんな背景があった。でも、それを押しのけるだけの努力をし続けた。
「昨年の世界アマに出場して、外国選手たちと一緒にプレーしていて、自分は劣っていないと実感したことも大きいです。それまでスウィングを作るゴルフをしていたような気がして、本当のゴルフをしていなかったのかもしれない」
もともとシャットフェースでフェードというスイングを改造し、オープンフェースにして、スイングプレーを修正するなどし、いまはナチュラルドローのスウィングができあがる。こうなると状況に応じて、フェードも打てる。宇佐美のショット精度の安定感は、肉体とスウィング、そして精神面の充実からくるのだろう。
7番ホール。マッチ25ホール目。宇佐美が、とって5up。8番ホール。伊藤がとり返す。宇佐美、4upで10番ホール、マッチ28ホール目に向かう。
でも、伊藤もまだまだ食い下がる。8番ホールで獲りかえす。だが、伊藤のショットのブレ幅が、どんどん広くなる。
「いちばんきつかったのが、午後の7、8、9番ホールですね。ちょっと集中力が途切れかけていました。それは、暑さや不安などが入り混じっていたのだと思います」宇佐美は、ふと厳しいトレーニングを思い浮かべる。何度も悲鳴をあげながら耐えたトレーニング。それは「耐えるところで、体が耐えてくれる」ためのものだと……。それを後半の最もきつい時間帯で、宇佐美を蘇らせた。10番ホールで気持ちを切り替えると11番ホール、パー5。マッチ29ホール目。宇佐美が獲る。5Up。残りホールが少なくなる。伊藤に、焦りが見える。
12番ホール、宇佐美が獲り、6Up。マッチ30ホール目で、大手をかけた。13番ホール、マッチ31ホールで両者分ければ、宇佐美の勝ちになる。
宇佐美は、その13番ホールを「緊張せずにプレーできた」という。それはショットにも自信があったし、この春に見たマスターズなどで世界一流選手たちの醸し出す雰囲気に感化を受けていた。「見ていると、ギャラリーや回りの人たちが選手に飲み込まれる雰囲気があるんです。普通なら、選手が飲み込まれそうなのに。それは、やはりそれまでの努力とかあると思いますが、試合では、スウィングにこだわらないで、ゲームに完全に集中できている。ですから、僕もゲーム感覚を鋭くして戦おうと思っていました」
ゲームが決着した瞬間。宇佐美祐樹は「自然に涙がこみ上げてきた」という。いままで苦しかった時期、いつ報われるかも知れない努力、練習の日々。宇佐美は、表彰式で「まず最初に、一緒にキャディとして戦ってくれた親父に感謝したい」と語った。その隣で、ランナーアップの伊藤が「まだまだ僕は努力が足りない。宇佐美先輩が人の2倍、3倍とやっているなら、僕は、その倍やって、来年の決勝マッチに戻ってきます。勝ちます」
優勝した宇佐美祐樹も敗れた伊藤誠道も、日本アマの決勝マッチにふさわしいゲームを見せてくれた。
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