「連覇は意識していない」ことあるごとにそう話していた大田和桂介(日本大学3年)だが、この言葉は連覇を意識している自分に言い聞かせるためのものだった。連覇に王手をかけて臨んだ最終ラウンド。大田和は1番のティーインググラウンドで、形容しがたい緊張感に襲われていた。このティーショットは、明らかに普段の大田和のスウィングリズムとは違っていた。球は、右バンカーのさらに右の林の中に。2打目もフェアウェイに出し切れずにいる大田和は、出だしからピンチに見舞われた。しかし、3打目をピン右ハイ4メートルに乗せると、「自分がリードしているのだから、スタートホールから無理やりバーディーを狙うつもりは無かった」というこ
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のパットがホールに沈む。思いも寄らぬバーディーで気を楽にした大田和は、スウィングリズムも取り戻す。
しかし、連覇への道は、予想以上に険しかった。5番でアプローチミスからボギーを叩くと、直後の6番パー3では、7番ウッドのティーショットを左に曲げて、グリーン横の木の根元に。「あと20センチ奥にいっていたら、スタンスが取れなかった」という僅かなラッキーを大田和は、無駄にしなかった。アプローチをピン下3メートルに寄せると、「ここが最初の勝負ところ」と気合を入れたパーパットを強気に打ち、ホールの土手に当てながら、沈めて見せた。下手をすればダブルボギーのピンチをパーで凌いだ大田和は、続く7番で下り傾斜の5メートルをねじ込みバーディー。9番では、ラフからの2打目を「フライヤーしてグリーン奥に外すくらいなら」と手堅くグリーン手前10ヤードに運ぶ。サンドウェッジとピッチングサンドを手にして考え込む大田和が選んだのは、サンドウェッジでのピッチエンドラン。この選択が吉と出て、球は最後の一転がりでホールに沈みチップインバーディー。9番のグリーン周りで観戦するギャラリーの拍手喝采を浴びた。
しかし、同組でプレーする阿部と大槻も粘りを見せて、前半を終えた時点で大田和は、2人を引き離すことが出来なかった。「スタート前から2人が攻めのプレーをすることはわかっていたし、そう簡単にリードを許してくれるような選手ではないので」と、あわてることなく後半のプレーに入った。10番は一昨日と昨日、ティーショットを右にミスしてあわやOBというピンチを招いた鬼門のホール。「今日は左の林でもいいと思って。右へのミスだけは絶対に避けたかった」というショットがフェアウェーの真ん中に。2打目をグリーン手前に運んだ大田和は、アプローチを1.5メートルに寄せると、これを沈めて通算12アンダーパーにスコアを伸ばした。しかし、大田和は、「ここは他の2人もバーディーを奪うと思っていた」というとおり大槻がバーディーを奪い、パーの阿部とともに大田和との差は2ストロークと変わらない。
続く11番では、大田和がフェアウェー右サイドからのセカンドショットをミス。グリーン手前からのアプローチも寄せきれず、痛恨のボギーで2人との差は、1ストロークになってしまった。勝負の流れがめまぐるしく変わる白熱した試合展開の中で、優勝を引き付けたのは12番の大田和のバーディーパットだった。3メートルのチャンスを確実にものにした大田和に対して、勝負をかけた大槻がボギーを叩き、一歩後退。後半に入って、スコアを伸ばせない阿部にも2ストロークの差を詰める術は無い。「13番からは本当に苦しかった。阿部選手も粘りのプレーをすることはわかっているし、先にボギーを叩いたほうが負けると思っていた」大田和。先にピンチに見舞われたのはリードする大田和だった。13番で風のジャッジミスでティーショットをグリーン奥に外すと、この球はOBラインギリギリまで転がる。辛うじてセーフだったこの状況でアプローチを50センチに寄せてパーをセーブし、ピンチを凌ぐ。その後16番までこう着状態が続く。我慢比べに白旗を揚げたのは、追う立場の阿部だった。17番で先にボギーを叩いた阿部に対し、大田和は18番でもバーディーを奪い、この日68。通算13アンダーパーにスコアを伸ばして、史上8人目の連覇を達成した。
「今日は、長くて苦しい1日だった」疲れ切った表情でホールアウトした大田和。「本当はどうしても連覇をしたかった」と、心情を吐露したのは優勝インタビュー中だった。「昨年、日本学生と日本オープンローアマ、関東学生の3つのタイトルを獲った。今年は日本アマの優勝を目標にしてきたけれどベスト8。この結果に、周囲からは昨年の自分の成績はフロックだったといわれていた」と、この試合に賭けていた理由を話した。狙って獲った日本学生のタイトルは、自分の実力を改めて知らしめた。
「4日間、スコア的には充分なのかもしれないけれど、プレーの内容は納得できるものではなかった」本来の大田和は、しぶとくパーをセーブして、チャンスを確実にものにするプレースタイルだが、この4日間は、バーディーも奪うが簡単にボギーを叩いてしまう浮き沈みの激しい内容だった。だからこそ、苦しみ、それを乗り越えて掴んだ優勝に意味がある。史上8人目の連覇は見事だが、課題も見つかった。「日本代表として国際競技に出場させてもらって、世界との差を身にしみて感じている。世界アマだったら、絶対にもっとよいスコアで優勝する選手が出てくる。そういう選手が世界にはたくさんいるということを意識してプレーしないと」と、更なる飛躍を誓った大田和。
「来年は、もちろん3連覇を狙います。その立場にいるのは自分だけですから」今度は、明確に「3連覇」を言葉にした大田和。ライバルの宇佐美祐樹には、「日本アマは自分が獲ったから、日本学生は譲ったよ」と冗談を飛ばされた。高校時代には一歩先を行っていた宇佐美にも今の大田和には、「来年は、全部自分が優勝するよ」と言い返せる実績と自信がある。
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