関東ミッドシニアで3位に入賞し、本選手権初出場の佐藤和男が「本人が一番驚いている」優勝を成し遂げた。4オーバーパーの14位タイで第1ラウンドを終えた佐藤は、この日最終組から5組前の第9組目のプレー。スタートの1番ホールで残り230ヤードのセカンドショットに4番ウッドを手にする。「普段の自分の飛距離では、220ヤードが精一杯。グリーン手前に運べればと思っていたのが、気合が入っていたのか…」思わぬ2オン。「驚いた」というが、「よもや」の連続となったこの日の佐藤にとって、このショットはほんの序章に過ぎなかった。この後3、6番でボギーを叩いたが、9番で13メートルのスライスラインを決めてバーディとし、
|
|
2度目の驚き。11番では3打目がグリーンオーバーして奥からの下り傾斜の難しいアプローチをグリーンの土手にクッションさせて、ダブルボギーを覚悟したホールをボギーでしのぐ。12番でボギーを叩き、このまま崩れるかと思われたが、「最近、調子が悪くても試合の途中で修正することが出来るようになった」という通り、その後は17番までパーを積み重ねる。そして迎えた最終18番。15メートルのバーディパットを沈めて、この日3バーディ・4ボギーの73。通算5オーバーパーでホールアウトした。アテストを終えた佐藤は、競技委員からプレーオフの可能性があることを告げられたが、「まさか。最終組までの間に自分より良いスコアは出ますよ」と、帰り支度を始めていた。しかし、ここでまたも佐藤に驚きの知らせがもたらされる。2アンダーパーの首位でスタートした佐藤弘幸が前半でスコアを崩し、優勝争いから脱落すると、その1組前でプレーしていた河本徳三朗が首位に立つ。このまま河本の逆転優勝かと思われたが、17番でボギーを叩き、先にホールアウトしていた佐藤和男と同スコアに並んだのだ。それでも、佐藤は自分が教えを請うている先輩の河本の優勝を信じていたが、18番で河本が2メートルのバーディパットを外し、プレーオフになったことを告げられたのだ。「本当に信じられなかった。河本さんの優勝を信じていたし、自分もそれを望んでいた」という佐藤。
先輩、後輩対決となったプレーオフは、1番ホールからスタートした。佐藤にとっては、初めての経験となるプレーオフ。それでも、佐藤は「緊張しなかった」という。「全くの無欲でした。ただ、変なミスショットをしたら、みっともないから、それだけはないように」と、平常心でスタートした1ホール目。佐藤は、左ラフからの2打目で本選同様4番ウッドを手にする。「好調だった」というこの4番ウッドのショットがピンまで残り45ヤードのフェアウェイに。「自分は50ヤード前後のショットが得意なんです」という佐藤にとって、この2打目が勝負の行方を決する1打となった。河本が70ヤードの3打目をピン左4メートルにオンさせたのに対し、佐藤の3打目はピン右1メートル。佐藤はこのバーディパットを見事に沈めて、本選手権初出場初優勝を成し遂げた。
優勝が決まった瞬間、佐藤はグリーン上で目を見開いた。喜びよりもこの日一番大きな驚きが佐藤の身体を突き抜けたのだ。「優勝なんて…困ってしまいます」当惑した表情で話し始めた佐藤。「この試合に出場している選手の方々は、皆さん実績を残しておられる方ばかりでしょう。今年の関東ミッドシニアで3位に入ったことも奇跡的なのに…それが日本タイトルも獲れるなんて…」優勝杯を手にした後も、恐縮しきりの様子だった。42歳で始めたゴルフは、ゴルフ歴10年を過ぎた年から「年々、自分の技術が向上していることを実感できています。年を重ねても飛距離は変わらないし」と、成長過程での栄誉に今後の更なる活躍が期待される佐藤。「今年は、日本タイトルも獲れて最高のシーズンです」佐藤の笑顔が見られたのは、最後のこの言葉を発したときだった。
|