追いつくところまでが精一杯で、なかなか流れを変えるまでにいたらない。酒井美紀(いわきGC)は、前半、戸惑いの中にいた。いきなり、2ダウン。自分のミスからだった。朝の練習場では、前日まで同様にショットが好調で、練習グリーンでのパッティングもスムーズなストロークができていることを確認した。
「これなら、昨日までと同様に自分のゴルフをすればいいな、と思ってスタートしました。ところが、コースにいったとたん、リズムがどこかに飛んでいってしまって、ドライバーショットが右にふけてラフばかり。さらに、昨日まではラフからのアイアンショットでも、グリーンに乗せられたのに、今日は、それもダメ。おまけに、アプロ
ーチショットまで距離感が合わなくて…。どうなるんだろうって、ちょっと焦りました」そのとき、頭に思い浮かんだのが、大会直前に届いた昨年の覇者・藤本麻子からのメールだったという。
「ミキティー(酒井の愛称)、今年は、自分のゴルフをすれば勝てるヨ」その自分のゴルフができなくなったときは、どうすればいいのか。それは、マッチプレー進出を決めた夜に再び藤本から届いたメールに記されていた。
「ここからは、体力勝負。疲れを顔や体に表すな!」相手も疲れている。だから粘り強く戦っていけば、そのうちリズムも取り戻せるだろう。これで、ちょっと落ち着けたそうだ。4、5番ホールを取り返してオールスクエアに持ち込めた。ここからは、また先行されては追いつくというパターンにはまり込んでいった。
22ホール目で5度目のオールスクエア。23ホール目を失い、28ホール目もとられて2ダウンとされたところで、酒井は、自分から流れを変えにいった。「疲れを吹き飛ばしてやろうと思って、歩くテンポをスピードアップし、もやもやしていたドライバーショットも、シャフトが折れそうになるぐらい思いっ切り振ってやりました」
29ホール目だった。会心の強弾道が飛び出した。常にドライバーショットで先を越されていた柏原のボールを越えていった。歩くスピードを上げたことで、何かが戻ってきていることを感じていた。このホールをとった。そして、ここからさらに3連続アップして一気に追いつき、逆転していった。2アップとなって初めてゲームの主導権を握り、3メートルのパーパットを残してしまった34ホール目のピンチも、この微妙な距離を沈めて、いよいよドーミーホールの35ホール目へ。
ドライバーショットは右ラフに。そこからの第2打はグリーンオーバー。アプローチショットを寄せ切れずにボギーとして、2パットのパーだった柏原にひとつ返された。「決勝を戦ってみて、柏原さんは飛ぶし、小技も上手でした。だから、すんなりとは終わらないだろうな…と、思っていました」
気持ちを引き締め直して臨んだ36ホール目。グリーン手前からのパー5の第3打を「今日の最高のアプローチショット」でピンそば30センチにつけた。第2打でグリーンオーバーしていた柏原は、奥のラフからチップインを狙ってきた。ボールはカップをかすめて50センチほど通りすぎていった。両者バーディーで分け、酒井の1アップ勝利が決まった。
「これが最後の日本女子アマ(現在プロテスト2次を通過して、この大会後7月の最終テストを受ける)なので、絶対に優勝したかった。尊敬する麻子さん(藤本)の次に自分の名前を優勝カップに刻みたかった。本当に、念願が叶いました」
この大会でもキャディーをしながら付き添った姉に引っ張られる格好で続けてきたトレーニング(ランニング)の成果が、長丁場を乗り切らせたようだ。
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