マッチプレーでは、2upでゲームを進めていくほうがいい。3up以上してしまうと要注意だ、と日本アマ界の至宝と言われた故・中部銀次郎さんから聞いたことがある。「相手にもよるが、相手が3down以上してしまうと、居直って何をやらかすのか、予測不可能になる。そうなると駆け引きとか、自分のゴルフの組み立てもややこしくなるので、自分が1downから2upまでがゲームを作りやすい」という中部さんの言葉が、まさに権藤紘太(山岡)と大田和桂介(日本大)のマッチにあった。
出だしから4番ホールまで、勝敗が動かなかった。先にupしたのは、大田和桂介だった。5番ホール。権藤のボギーで負け。続く6番ホール、権藤は、
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3パットして、負け。2down。7番ホールで、これまでボギーを叩かないゴルフをしていた大田和が、めずらしくボギーを叩いて、権藤が、1つ取り戻した。ところが、8番ホール、そして10番ホールを、権藤は、負けて、3downとなった。
流れは、明らかに大田和にあった。
そのとき、権藤はキャディと話した。同期で、高校時代から7年間仲間として付き合っている斉藤智洋(名古屋商科大学4年)が、予選で敗退したあと、キャディを買って出てくれた。
「ともかく、開き直って、俺たちがやれることをやろう」キャディの斉藤が、権藤に声をかけた。権藤も、同じ気持ちだった。「実力的には、相手(大田和)のほうが上なんだから、チャレンジャーでいいんだ」と、気持ちがひとつになった。
14番ホール。大田和が、思わぬOBをした。権藤も、右に曲げて、あわやというところだったが、OBは逃れた。流れが、変わってきた。2downに戻した。
そして16番ホール。権藤は、5メートルを沈めて、1downに戻す。
「途中から、キャディの言葉以外、何も聴こえなかったんです。ほかに何も入ってこない。ラインの読みも一致していたし、それだけ集中できていたんだと思います」と権藤は、振り返る。
17番ホール。土壇場である。残り168ヤード。8番アイアンで打った。
ピン手前5メートル。
「今日は、ショート気味のパットが多いから、しっかり打てよ」とキャディがアドバイスする。権藤が、黙って頷く。
それを入れて、オールスクウェアに戻した。さらに18番ホールは、分けて、1番ホール(19ホール目)へ。その18番グリーンから1番ティインググランドにいく途中、権藤は、歩きながらニヤッと笑ったような表情を見せた。自分では、そう思っていなかったらしい。でも「3downまで追い詰められた自分が、エキストラまで持ち込めるのか…と思いました」と言った。
「ショットが日に日に悪くなっているんですよ…でも、マッチプレーだと、解らないですねぇ。勝負は…」権藤は、これまで日本アマに2回出場している。ともにベスト16で敗れていた。
明日、決勝戦…。と、言うと権藤は、一瞬、息が止ったような顔をした。「ここまできたら、やるしかないですね」ときっぱりと言った。
なにをやってもだめ、ショットも、パットもアプローチも…3downとなったときに、そう思っていた権藤のメンタリティは、どん底からキビスを返すように、一気に前向きになり、強靱なメンタリティに変わって準決勝を勝ち抜いた。
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