権藤紘太（山岡）は、茫然自失だった。戦い終えても、まだ自分の気持ちが整理できない。「自滅でした…」と一言いうのが、精一杯だった。そして、しばらく間を置いて「前向きになれる調子ではなかった…でも、前向きになれない自分の弱さも、同時に感じました」と呟く。
午前中。スタートの１番ホールで、権藤は１メートル弱のパーパットを外した。そこで１down。さらに２番ホールで、似たような距離のパットを外した。しかも、カップに触ることなく外れたボールを見て、権藤は「あれ？」と思ったという。
その微かな不安感が、ホールを追う毎に増殖してしまう。午前のアウト９ホール。権藤は、早くも４downと差をつけられ
た。４down目も、やはり１メートル前後の距離だったという。権藤に、負の連鎖が始まろうとしていた。逆に、阿部祐樹は「４upしていても、油断できない。Upは、ないものだと思ってプレーを続けよう」と、インへ向かった。さらに阿部は、11、12番ホールも勝ち、この時点で６up。ようやく権藤が、ひとつ獲り返したのは、13番ホールだった。権藤が、阿部のゲームの流れを変える隙が、まったくなかったわけではない。15～18番ホール。阿部に疲れが見えた。15番で、阿部が獲り、６upにしたものの、つけいる隙があったとすれば、そこで一気にたたみ掛けるような攻めのゴルフを権藤は、したかったに違いない。
18番ホールで、ひとつ獲るのが精一杯だった。「午前中の阿部君のゴルフは、ミスらしいミスが、ほとんどありませんでした。そういうプレースタイルだということは、十分に知っていたのですが…。ですから、午後（19ホールめ）に入って、自分のゴルフができたら、勝てるんだから、と言い聞かせたのですが、普通に入るパットが、いくつ外れたのかな…数え切れないです」
阿部は、自分のプレースタイルを、全く変えなかった。「どんなに差をつけていても、upはないものだと思って、しっかりと自分のペースを守っていこう」と思っていた。午後、19ホール目（１番ホール）から、18番で、阿部が獲られ５upとなった阿部は「はやく自分がオナーを獲れる立場になりたい」と思っていた。21ホール目の３番ホールで権藤が獲って、その差は、４up。まだ残りホールは十分あるので逆転のチャンスは、ある。権藤にとっては、これからの数ホールが、ゲームの流れを引き入れるチャンスだった。
ところが、22ホール目（４番ホール）で、阿部がバーディとし、獲り返した。阿部は「これでオナーが獲れる。自分が先に打ってプレッシャーがかけられる」と冷静に組み立てを考えていた。権藤にとっては、この22ホール目と次の23ホール目（５番ホール）が、もっとも精神的ダメージが大きい２ホールだった。「特に、23ホール目で、１メートル強の距離を外して負けたときに、集中が切れた感じがしました」と権藤は語った。茫然自失の状態は、ここから始まっていたのかも知れない。25、26、27ホールと阿部に獲られ、あと９ホールを残して、９down…。
阿部のゴルフは、確かにオナーを獲ってから、蘇ってきた。歩くテンポもスイングのリズムも、阿部らしい切れ味のいいものだったし、なにより、アプローチが面白いようにピンに近づいていた。もっと攻めなければいけない権藤のボールは、気弱に、手前で止りホールに近づいてくれない。
28ホール目。10番ホール。ここで権藤が勝たない限り、次のホールには進めたい。分けても、阿部の勝ちが決まる。阿部は、残り145ヤードの第２打を８番アイアンで打ち、ピン５メートルにつけた。権藤は、３オン。そした阿部が、最初のパットを打ち終えた。カップから20センチ足らず。権藤から、コンシードが出て、ボールを拾い上げた。阿部がパー。権藤が、４打目のパッティングをする前に、勝負の決着がついた。
終わって見れば、10and８という大差だった。
「いくつもの運に恵まれていたのだと思います。振り返れば、僕がいいプレーをしているゲームよりも、相手がミスしてくれて勝てたマッチが、いくつもあったと思います」
第95回日本アマチュアゴルフ選手権のチャンピオンは、21歳の阿部祐樹だった。そしてランナーアップに、同じ21歳の権藤紘太がなった。阿部の誕生日は、２月２３日。権藤は、その１日後の２月２４日だった。
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