松山英樹(東北福祉大)は「太い」と、2年先輩の秋本久成(泉国際)は表現した。
「私生活でもゴルフでも、太いヤツだと思います。池田勇太先輩も、太いと感じますが、松山は、言葉とか態度はソフトでも、何故か太いんですよね。物怖じしないというか…」
その秋本は、マッチ1回戦で松山英樹と対戦した。先制したのは、秋本だった。3番ホールで松山が、4。対して秋本は、3でホールアウトし1up。けれども、そこから松山の快進撃がまった。
4、5番ホール。そして7番と獲って、松山の2up。さらに9番ホールでは、13メートルの距離を沈めて松山の勝ちで3up。13番ホールでも松山が奪い4up。唯一、秋山が
ボギーとして敗けたホールである。
「僕は、粘って粘って戦ったと思います。彼のゴルフは、ミスがミスにならないんですね」と秋本は言った。「いまの松山は、どこからでも入れにくる凄さがありますね。ですから、僕が先にピン近くに打っても、彼にとってはプレッシャーにはならないんです。動じない。性格でしょう、太いという」秋本は、敗れてなお、どこか清々しさを感じてコースを去った。
2回戦は、逆に1年後輩の
古田幸希(十和田国際)と対戦することになった。
古田はジュニアの中学生時代「ぽっちゃり王子」と呼ばれていた。今年、松山と同じ東北福祉大に入学した。そのゴルフ部でも仲間たちから「ぽっちゃり」と呼ばれている。
もし古田が1回戦突破すれば、1年先輩の松山と対戦することになるという予想で、昨晩、父親との電話で「ともかく勉強してこい。試合のゴルフを間近で見られるんだから」と言われていた。古田も同じ気持でいた。
でも、不安もあった。「いつ、マスターズの(ときの)ショットが出るのか」という不安だった。
「この1年間、ずっと背中を見て練習してきましたから、ともかく勝とうとか、勝ちたいとかではなく、ついていこうと…」
3番ホールで、松山が1up。その後ずっと分けてきた8番ホール、パ-3で、松山は素晴らしい弾道でピンに近づけた。
古田は、ゲーム中、松山の背中ではなく、松山のスウィングテンポやその弾道を見つめていた。「その弾道のイメージを自分の中に引きずったままスウィングできたんです」その8番ホールで、お互いにバーディとし、松山は、古田を引き離すことができなかった。
「アッ、マスターズのショットだと思ったのは、次の9番ホールの第2打でしたね。ほんとにそのまま入ってしまうのではないかというショットは、ピンに当たって1メートルほどについたんです。ショットの精度が、やっぱり2倍、いや3倍も違うなぁ、と思いました」
松山は、不安を抱えていた。
「1回戦では、パットやショットのミスをうまく誤魔化し(繕い、まとめ)ながら自分のゴルフができていたのですが、2回戦は、自分のゴルフができなくなっていました」
ショットの微妙なミスがパッティングに響いてしまったのだ。その典型的なシーンが、この9番ホールの1メートルの距離だった。いつもの松山ならば、うまく決められるものをペロリと外してしまうのである。
それでも、まだ1upのままで有利なはずの松山の心情が揺らぎ始めた瞬間だった。続く10番で古田にバーディを奪われ、ここでも松山が外してオールスクウェア。さらに12番、パー5で古田に獲られ1down。
15番ホール。古田に、グリーンエッジからチップインバーディを獲られて2down。16、17番ホールを分けて、2and1で松山は古田に敗れた。
古田は、「その場面、場面で、どういうときに、自分のいいところと悪いところがでるのかが解るようになってきたのが、少し成長できたかな、と思います」
メダリストが、そのままマッチプレーを勝ち進んで優勝するのは、とても難しい。ストロークプレーのゲームとマッチプレーのゲームに長けていなければならないし、精神的にもよりタフさが求められる。
松山英樹は、悔しさを残してコースを去った。
でも、1回戦で敗れた先輩の秋本に言わせると「あいつのいいところは、常にポジティブなんです。そこが強みであり、成長を推し進めているんだと思います」という言葉を、松山の背中に見て取れた。
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