数々のタイトルを獲得してきた藤本佳則(東北福祉大)。しかし、今までそのトロフィーコレクションの中に、JGA主催競技の優勝杯はひとつも含まれていない。最もタイトルに近づいたのは、昨年の日本学生ゴルフ選手権だったろう。第1ラウンドから首位をひた走った藤本は、5打リードで最終ラウンドを迎えた。その最終ラウンドも71ホール目まで、優勝杯は藤本の手の中にあった。しかし、最後の1ホール。この1ホールで櫻井勝之(明治大)に逆転を許し、優勝杯はするりと藤本の指の間をすり抜けていってしまった。
そして迎えた今年の日本アマ。クォリファイングラウンドから藤本のゴルフは、充実していた。1ストロークに集中し、雨や猛暑
と厳しいコンディションの中、全くぶれないプレー振りは、強さというより怖さを感じさせるものだった。「不得意かもしれない」とこぼしていたマッチプレーでも、藤本は泰然自若にマッチを勝ち進む。どんなにリードをしても、どれだけ大差をつけられても、最終ホールまでプレーが続くという気持ちは、変わらなかった。そして、順当といっていい決勝進出。決勝の相手は、昨年の日本学生チャンピオンの櫻井。まさに因縁を感じさせる対戦相手だった。
藤本は、これまでの4日間に比べて、ショットのブレが出ていた。それでも、1番でバーディを奪い先行すると、前半の18ホールは終始藤本がリードを保ち続けて、2upで終えた。
30分の休憩の間、藤本は30度を超える猛暑で熱がこもった体を冷やすことに終始していた。
もしかしたら、この間に、自分の気持ちも後半に向けてリセットしていたのかもしれない。
後半に入って櫻井の追撃を許し、27ホール目にして初めてのリードを許す。しかし、「最後までプレーは続く」この思いを今一度確かめたであろう藤本は、34ホール目に1upのリードを許しても、粘り続ける。
そして、藤本の思い通りとなった36ホール目のプレーに入った。ともにパーオンの18番グリーンは、藤本が約7メートル。櫻井は約3メートル。入れなければほぼ負けが決まってしまう運命のパット。藤本は、完璧なラインの読みとタッチでこのパットを打った。本人もカップインを確信したであろうこのストロークは、ホールのど真ん中を通り、土手に当たって、ホールの向こう側に外れた。しばし天を仰ぐ藤本。またも、優勝杯は藤本の前を通り過ぎていった。
勝者と敗者が決まって、すぐに始められた表彰式。そこに立った藤本は、悔し涙を見せた。殆どの出席者が初めて見るであろう藤本の涙が、日本アマのタイトルへの思いの深さを感じさせた。
勝利を掴んで得た栄冠と、勝利を逃して刻まれた悔しさ。昨年の日本学生から1年後、2人にとって忘れられない刻印が心の奥深くに再び刻み込まれた。これから、2人が歩む道は、次のステージに移っていくだろう。2人の心の刻印が、これからのゴルフ人生にどのような糧となるのだろうか…
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