「縁」という言葉は、どれだけ藤本佳則(東北福祉大学4年)に試練を与えるのだろう。昨年大会、櫻井勝之に逆転負けを喫し、日本アマでも櫻井に敗れて準優勝に終わった藤本。今度こそという思いは、言葉にしなくてもひしひしと感じられた。
ユニバーシアード競技大会で個人戦銀メダルを獲得し団体戦金メダルにも貢献して、中国からとんぼ返りで臨んだ本選手権。疲れが残る中、冷静なプレーで第3ラウンドを終えてトップに立った。悲願の初優勝に向けて、最終ラウンドも全く隙のないプレーで終始、試合をリードしてきた。
スタートの1番でバーディを奪うと、3、4番で連続バーディ。6番でもバーディを積み重ね前半で4つスコアを
伸ばす。その藤本の後を追ったのが、ユニバーシアード競技大会で藤本の上をいき金メダルを獲得した松山だった。お互いに「最終ラウンドは、スコアの伸ばしあい」と読んでいた通り、松山は1打差で藤本を追走する。
勝負の流れが動いたのは、後半14番。通算17アンダーパーまでスコアを伸ばした藤本は、松山との差を3ストロークまで広げていた。しかし、松山は14番から3連続バーディを決めて藤本と同スコアに並ぶと、17番をボギーとして再び藤本が1打リードを奪ったが、最終18番でバーディを決めた松山に首位タイに並ばれた。18番のサードショット。112ヤードをアプローチウェッジで打った藤本は、球の行方を追うまでもなく、両手を膝に当ててうなだれた。痛恨のミスショットに「あの距離でショートアイアンをもってミスをしていては…勝てないですよ」と悔やむ藤本。このショットが、藤本とJGAタイトルとの縁を遠ざけた。
プレーオフ1ホール目。10番(パー5)からスタートした学生チャンピオンを決める戦いは、松山がバーディを奪って、あっさりと決着を迎えた。5バーディ・ノーボギーの完璧なプレーを見せながら敗れた藤本は、「いくらノーボギーでも勝たなければ意味がない。途中、3打差まで広げたリードも、1ホールで逆転できるものだし。リードを奪っていても、差はないようなものと思ってプレーしていたけれど…」藤本は、これからプロの世界に踏み出そうとしている。「今日で学生の間に獲りたいと思っていたタイトルは全て終わった。今日の結果は、自分に何かが足りないのだと思わせてくれるものだったと思う。もっと上手くなって…」気丈に話す藤本にかけられる言葉はなかった。
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