プレーオフの1ホール目(NO.10)、30センチもないバーディパットを入れた瞬間、松山英樹(東北福祉大学2年)の優勝が決まった。相手である先輩・藤本佳則を気遣って、派手なガッツポーズもなく、静かな幕切れであった。
試合は藤本が優勢に進めていた。藤本が1、3、4、6番でバーディを奪い、スコアを通算15アンダーパーに伸ばした。松山は1、3、5番でバーディを奪い、追いすがる。さらに9番でもバーディを奪い、通算14アンダーパーとして、藤本と1打差に迫った。これで「いけるかな」と思ったが、10番(パー5)で2オンに成功するも3パットしてしまい、パーに終わって「やばいかな」と不安がよぎった。
藤本が10、11番と連続バーディを奪い、通算17アンダーパーとして、松山との差は3打に開いてしまった。だが、松山の底力は果てしない。14番から怒涛の3連続バーディを奪い、一気に首位に並んだ。昨年の最終ラウンドも最終組で回っていた松山の脳裏には、逆転優勝した櫻井勝之のイメージがあった。その「最後まであきらめずにプレー」することを心がけた結果、チャンスを掴み取ることが出来た。
が、ピンチも訪れた。「並んで油断した」17番でのティーショットを曲げ、このホールをボギーとしてしまう。再び1打差に。だが、17番で2メートルのパットが「入ってくれた」ことで、18番でも「イーグルを獲るしかない」と気持ちを切り替えられた。結果的にはバーディを獲って、通算17アンダーパーで藤本と並んでホールアウトした。
そして、勝負はプレーオフへ。2人ともティーショットはフェアウェイに運んだあとの2打目の攻め方が好対照だった。藤本はアイアンでグリーン手前のフェアウェイに刻んだ。一方、松山は「攻めの姿勢を最後まで貫く」とユーティリティで果敢に2オンを狙った。プレッシャーのかかったショットは、見事にピンの右9メートルに乗った。イーグルパットは惜しくも入らなかったが、ほぼバーディは確実の距離に寄せた。藤本は3打目のアプローチをピン手前3メートルの位置につけ、バーディを狙うが、入らずにパーでホールアウト。
勝敗は決した。
「うれしいですけど、大学4年の立場」の藤本の心境を慮ると、素直には喜びを表すことは出来なかった。「複雑ですね」と言葉も少ない。「石川遼のライバル」のように言われるが、石川よりむしろ藤本に「勝ちたい」と思い、倒すことを目標としてきた。それだけ藤本は松山にとって「大きな存在」なのだ。意外にも大学に入って学生の試合で優勝したのはこれが初めてだ。「いつも藤本さんが上にいたので」と、その彼を破っての優勝は「うれしい」はずだ。
その目標とする藤本は来年卒業し、今度は松山が追われる存在となる。だが、「そういうことは意識せず、手本となれるようになりたい」とおごることはない。この秋は9/29~10/2のアジアアマチュアゴルフ選手権の連覇が最大の目標となる。「大きな舞台を経験したことでまた出てみたい」とマスターズへの思いがある。それにはアジアアマに勝つしかない。「秋のリーグ戦で優勝して、調子を上げて挑みたい」と思いは遠くオーガスタへと向かっていく。
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