通算イーブンパーの単独首位で最終ラウンドをスタートした白井敏夫(総武)。2003年大会で本選手権を制しているが、そのときは、第3ラウンドが濃霧のためにキャンセル。最終ラウンドをプレーせずしてタイトルホルダーとなった。白井自身初めてとなる首位で迎える最終ラウンドに、「こんなにプレッシャーを感じるなんて」と苦笑いを見せた。
1番ホール。フェアウェイから放ったセカンドショットはピン横1.5メートルにつく。出だしからチャンスを迎えた白井だったが、このパットを「ラインが読めず」に外してしまう。「昨日までは、入れていた距離が入らなかった。年をとって、短いパットが入らなくて…」昨日までの自信が揺らぐパ
ットは、混戦となった優勝争いの遠因となったのかもしれない。5番では2メートル、8番ではティーショットを左にミスして、前半を2ボギー。後を追う松本も3つスコアを落とし、スタートから1打差を広げて後半に入った。しかし、ここから「JAPANタイトル」のプレッシャーが白井を襲い始める。10番で1.5メートルを外すと、13番では再びティーショットが左に曲がりボギー。松本も同じようにスコアを落とし、2人の差はスタート時点と同じ2ストローク。このまま白井が逃げ切るかと思われた14番で白井に最初の苦難が訪れる。ティーショットを左にミスした白井は2打目を木に当て、3オン。パーパットは10メートルを残した。白井はこれをねじ込んで松本に引導を渡したかと思われたが、続く15番で11メートルからよもやの3パットのミスで、バーディを奪った松本に同スコアに並ばれてしまう。
続く16番で松本が連続バーディとし、逆転を許して気落ちした白井は、17番でまたもティーショットを左に曲げてボギー。「ここで優勝は諦めた」という白井。残り1ホールで2打差をつけられては、それも仕方ないことだろう。しかし、白井にとって奇跡が起こる。18番で松本が3打目を池に打ち込んでダブルボギーを叩き、再び白井と松本が通算6オーバーパーで首位タイに並んだのだ。プレーオフの1ホール目。白井は170ヤードのセカンドショットをピン手前20メートルに2オン。パーオンを逃した松本に対して、このバーディパットを「適当に打って」50センチにつけた白井が、粘る松本を振り切った。「後半は本当に苦しかった。理由はわからないけれど、ティーショットは曲がるし、パットも決まらない。これが日本タイトルの重みなのかも」。
8年ぶりとなる優勝に満面の笑みを見せながらも、寄る年波と折り合いをつけてきた8年という歳月を振り返る。「視力の低下、アイアンショットは切れがなくなる。短いパットは入らなくなる。1メートル前後のパットは本当に自信がなくなってしまった」それでも、現状を受け入れつつ、白井の視線は先を見ている。この優勝で来年の日本アマ、シニアオープン、そしてディフェンディングチャンピオンとして連覇を狙う本選手権の出場資格を得た。「2003年に日本シニアに勝って、翌年の日本アマでマッチプレーに進出した。来年も是非、日本アマで頑張りたい。そして、日本シニアオープンは予選落ちになってしまったから、それもリベンジしたい。そして、達成できなかった日本シニア連覇…目標にしたいよね」さらに続けて、「あと2年後にはミッドシニアの資格も得る。65歳になるんだよね。ミッドシニアにももちろん優勝したい」飄々と言葉をつなぐ白井だが、強さの秘密は、この勝利への貪欲さにあるのかもしれない。
|