36ホールを戦い終えて、クラブハウス前のキャディ置き場にやってきた比嘉一貴は、セルフカート(父親・洋さんが帯同キャディ)のキャディバックを抱え込むように、座り込んで「あー。疲れました」と言った。
「勝っていれば、こんなに疲れがでないんでしょうけど…」
疲労困憊、というよりも、むしろ虚脱感のほうが大きかったのかも知れない。
「自信なくしちゃいますよ」と彼が言った。
「いや、負けたから、また強くなれるよ」と言い返すのが精一杯だった。
「じゃあ、もっと自分をいじめないとですね(笑)」
「そう部活で2キロ走るのを、人の倍の4キロ走ってここまできたんだから、次は、5キロにすれば?」
「あは
は(笑)。そうですね!」
昨日は、疲れすぎて鼻血が出たという。比嘉は、試合が始まると「食欲がなくなるんです。少し、お腹が空いたというほうが、いいのかなぁ。いや、ジンクスもあって、朝飯を食べないと勝てる、というにもあるんですけど…」と言っていた。
試合の緊張感で食欲が出ないというケースは、ゴルフでは昔からよくある。ボビー・ジョーンズは、試合の1週間前から、食べても吐くという日々が続いたという。
「今日は、ほんとにうまくいきませんでした。前半(最初の18ホール)からショットが噛み合わず、パターもだんだん入らなくなってきて…。後半の15番(33ホール目)なんか、(ストロークで)手が動かなくなるくらいでした。流れに乗れなかった、というよりも、乗る気配も感じませんでした」
その原因のひとつが「朝から、気持ちだけ焦っていた。これがプレッシャーなのかどうなのか解らないけれど、相手(小袋)も簡単に勝てない相手ですし、自分としては、ピンチで粘って、チャンスで獲るという気持ちでやっていました」
それでも比嘉は、小袋に食らいついた。獲られたらとりかえす。これでもか、というようなゲーム展開だった。これほど粘り強い高校生も珍しいと思う。
「特に後半になって、お父さんと(パッティング)ラインを決めて、これでいい、と構えて、打とうとするとき、一瞬、これでいいのかって迷ってしまう場面がありました」
その一瞬の迷いが、ボールの転がりを変える。かつて中部銀次郎さんが「迷った分だけ曲がる」と言っていたが、この日の比嘉がまさにそうだった。
比嘉は、最後にこう言った。
「きっと(ゴルフの)神様が、まだ早いって言っているのだと思います」
すべてのセレモニー、会見など終えて、比嘉が帰路についた。
すでにその時は、あれだけ溜まっていた疲労が、嘘のように軽くなっているような足取りだった。
高校2年生の未来は、明るい!
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