全米オープン本選への道は、かくも険しいものかと思わされる。36ホール・ストロープレーを終えて、通過者が決まったのは、ブレンダン・ジョーンズと谷口徹の2人。残り4人の枠を争うことになったのは、通算6アンダーパーで3位タイに並んだ藤田寛之、高山忠洋、ドンファン、J.B.パク、W.リャンの5人だった。1人を振り落とす過酷なプレーオフ。丘陵地に展開するレイク浜松カントリークラブ。
1日36ホールの長丁場を戦った末に行われたこのプレーオフに臨む5人の姿は、悲壮感が漂うものだった。10番ホールからティーオフした1ホール目。最後にティーショットを放ったJ.B.パクの球は左に大きく曲がりOB。ここで勝負
あったかと思われたが、パクは5打目を必死のチップインで決めてボギーでホールアウト。同じくボギーを叩いたドンファンとリャンとともに、プレーオフ2ホール目に進む。
1ホール目でパーセーブして、本選出場を決めたのは藤田と高山の2人。
藤田は、第2ラウンドの最終ホールで8メートルはあるかと思われるバーディパットをねじ込んでプレーオフ進出を決めていた。「36ホール目のあのパットが全てだった」疲労困憊の身体と全米オープン出場権を獲得した喜びが交じり合った笑顔で語る藤田。プレーオフは考えていなかったというが、そこは百戦錬磨のベテラン。「緊張感があった。5人で1人落ちというのと、凄いメンバーだったし」といいながら、しっかりとプレーオフを勝ち進んだ。藤田自身3年連続3度目の全米オープンは、「マスターズを除いて、一番出たい試合」と気合も入る。「まずは4日間プレー
すること。出来ればトップ20に入れるようにしたい」と、目標を定めた。
一方の高山は、第2ラウンドを最後にホールアウトした。約10メートルのバーディパットは、1.5メートルほどショート。これをねじ込んで、プレーオフに名乗りを上げた。しかし、高山は「プレーオフだけは避けたかったのに…その気持ちがさせてしまう、そのせつなさ」と、36ホールで本選出場権を勝ち取れなかった自分を悔やんで見せた。それも、昨年の2勝に比べ、今年は前半戦から苦戦が続き、先週も予選落ちを喫した勝負弱さからくるのか。しかし、ここから自身2度目の全米オープンの舞台への意欲が「気力を振り絞って、どれだけでも戦ってやろう」と萎える気持ちを奮い立たせる原動力となった。そして勝ち取った夢舞台。
「メジャーの経験、雰囲気は挑戦意欲を掻き立てられる。選手の気持ちを切れさせないようにギャラリーの盛り上げ方が温かくて。ギャラリーが凄く良くゴルフを知っているなと。前回は2日間で終わったけれど、自分なりには精一杯プレーした。今年は、まずは予選通過をして、有名選手、ワールドランキング上位選手とプレーをして自分のレベルを上げていきたい」と豊富を語った。
残り2枠をめぐる戦いは2ホール目となる11番ホールのグリーン上。3人がパーセーブをして、勝負は3ホール目に持ち込まれるかと思われたが、3人の足が止まる。リャンが同伴競技者からパットのライン上にあるボールマーカーをずらして欲しいと頼まれ、クラブヘッド1つ分、ずらした。リャンがそのボールマーカーを元の位置に戻さずにプレースして、プレーしてしまったために、誤所からのプレー(規則20-7c)で規則16一般の罰の2打が課せられたのだった。思わぬ幕切れに呆然とする選手たち。だが、勝ち抜いたドンファンとパク、夢舞台への道が閉ざされたリャン、その誰もが誰を責めることなく、お互いの健闘を讃えあっていた。
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