2回戦を終えてスコアカードにアテストサインする森田遙(坂出)の手は震えていた。それだけで厳しかった戦いを物語っているようだった。昨年は、決勝で比嘉真美子に敗れてのランナーアップ。ならば、今年は優勝を。周囲の期待が、本人の意識以上にプレッシャーとなって襲いかかっているのだろう。
自分の中の異変に気付いたのは、岩﨑美紀(那須小川)との1回戦最初の9ホールの後半だったという。
「相手に、そのホールをとられそうになると、自分でいられなくなってしまって…。“ここをとられると、取り返すのに何ホールかかるだろうか”とか、“外れたら、どうしよう”とか、マイナスイメージばかりが浮かんできてしまって、
本当にドキドキしてしまうんです。こんなの初めてで、どう気持ちをポジティブに切り替えればいいのか、わかりませんでした」。
それでも1回戦は4and3とほぼワンサイドの結果だったのだが、続く2回戦では、マイナス志向が、一層強まっていった。対戦相手は勝みなみ(鹿児島高牧)。中学3年生ながら、飛距離には定評がある。スタート前。森田は、こんな思考に陥っていた。
「パー5ホールは、相手が絶対に有利。自分は、どこでそれをカバーすればいいのか」。
異変は、かなり深刻な状態になっていたといっていいだろう。4番ホールまでオールスクウェアで進み、迎えた5番(パー5)ホールで、森田が予想していたとおり勝のバーディで、このホールを失った。流れは、相手に傾いていったのも察していた。8、9番も失って前半の9ホールを終えたところで3down。圧倒的に不利な展開。絶体絶命とさえ森田は感じていたという。
実は、対戦相手の勝も、精神的にハンデを背負っての戦いであったことを、森田は知らなかった。
この大会前のことだ。勝はパッティング不調に陥り、いくら修正しようとしても引っ掛け癖が治らなかった。ついにはパターを手にするのも嫌になり、練習を放棄してしまっていた。「自分では、よくマッチプレーまで進めたな…って思っていました。だから、1回戦を勝ち上がっても、まったく自信がなくて…」
そうとは知らない森田である。相手よりも自分との闘いに悪戦苦闘していた。
気持ちが、少し切り替わったのを感じたのは11番ホールだったという。「右ラフからバンカー越えに167ヤードの第2打を6番アイアンで打ったのですが、難しい状況で手応えのあるショットを打てたのです。このホールは分けでしたが、“これができるのなら、諦めることない。まだまだいける”と、思えたのです」。
12番でひとつ取り返し、14番でもバーディを奪って1downに。さらに16番では勝のパットミスがあってついにオールスクウェアに。そして迎えた18番パー5。パーオンの森田に対して勝は4オン。しかも下りのファーストパットを4メートルもオーバーさせ、返しも決められずにダブルボギーとなり、森田のボールはコンシードされた。
1upで森田の勝利が決まった。「勝つのって、こんなに苦しいことなんですね。まだ2回戦が終わっただけなのに、こんなに手が震えるなんて…。それを思うと、昨年の比嘉さんは、本当に凄かったんだなって、改めて思い知らされました。連覇ですもんね。2年間も勝ち続けるなんて、尊敬します」。
ところで、心の異変は、どうなっていたのだろう。
「自分は、本当にエンジンのかかりが遅い。明日からは、スタートからフルスロットルでいきます」。
どうやら、本来の自分を取り戻したようだ。“明日は”ではなく、“明日からは”と口にしたのが、その証だ。決勝までの戦いを意識したことからくる微妙な違いではあった。
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