大堀裕次郎(ムロウ36)は、戦略家である。
「まずストロークプレー(予選)とマッチプレーとでは、攻め方を変えたんです。ストロークプレーでは、ユーティリティをティーショットで使ったりし ましたが、マッチでは、ドライバーを多用しました。特に、準決勝では、相手(イ・スミン)が強いので、先制パンチのように、1、2番では、ドライバーを思い切り振りきってやろうと思ったんです。僕の持ち味は、飛距離ですので。もちろん、曲がってもいいから、自分が、これだけのパワー(ヘッドスピード52㍍/
秒)を持っているってところを見せつけておかないと…という作戦を 立てました」。
それが見事に功を奏した。どうやって
出鼻をくじいて、相手に焦りや、威圧を与えられるかという作戦だったのだ。
「相手は、上手い、強いという評判だったので、僕は、まず相手にバーディをかなり獲られるものだ、と思って、それはそれでいいから、とりあえず自分のゴルフをしよう」。
その作戦が、このマッチの流れを変えたと言っていいだろう。
死角なし、と言われていたイ・スミンに苦戦を強いた。いままでのように、自分が流れをつくって、ある意味、余裕でマッチを展開するというゲームができなかった。
「自分が相手の気持ちになって、“たぶん、こうだったら、自分なら嫌だろうな”ということを、相手にすると、きっと嫌なはず。そういう気持ちでゲーム を作れましたから」。
ようやくホールマッチの勝敗が動いたのは、5番だった。イが、1up。けれどもすかさず大堀が次の6番を奪いオールスクウェアに戻し、さらに7番をとって1upとリード。9番では、イが奪って再びAS。10から14番までは、勝敗が動かずオールスクウェアのまま15番にやってきた。
そこでSoo-Min Leeがチップイン・バーディで1upしたのだが「キャディと話していて、あれはおそらくチップインするね、と読めていたので、動揺はなかったんです」。
変な言い方だが、冷静に1downしたのである。16、17番と分けたけれど、大堀は、いずれも3メートルの距離を外してのパーで分けたのだ。イにとっては、技術では優っていてもマッチプレー巧者の大堀の戦術に負けたのかも知れない。
1downと、もうあとがない18番。大堀は、第2打をグリーンに乗せた。イは、3番ウッドでの第1打をラフ、そこからグリーン手前から、2パットでも入らないという流れだった。大堀は、4メートルのバーディパットを残していた。その距離を、イが、コンシードしてオールスクウェアと振り出しに戻って、19Hへ向かうことになった。
「いや、実は、難しいラインで、僕もキャディも読めないよなぁって、話していたんです。あれで、もし僕が3パットしたら…」。
事実、18番を終えたあと、その距離を大堀は打って(練習ストローク)は入らなかったという。でも、相手に、最悪でも2パットのパーにしてくると思 わせたのは、このゲームの流れの結果だったのだろう。
19ホール目(1番)へと向かった。大堀が先に第1打を打つ。それを着実にフェアウェイセンターに落とした。「あのティーショットは、確実に自分の流れにしたいという大事な1打でした」と振り返る。
結果的に次の20ホールで決着したのだが、このマッチの流れとストーリーを作ったのは、大堀であり、その筋書き通りにプレーを展開できた勝利だった。
敗れたイは、「今は何も考えられない。今日は調子よかった。大堀選手はパットがうまい。大事なパットは全部入れてきた。18番のファーストパットはあんなに 切れると思わなかったので、タッチがあわなかった。この5日間で、すべてのラウンドを2アンダーパー以上で回っているので、ゴルフの内容には満足して いる。来週KGAの試合に出て、その次の週はネイバーズトロフィーに出場します」とがっくりと肩を落とした。
大堀は、明日の決勝マッチについて「明日の午前中(18H)は3~4downまでは良しとします。ともかく気持よくプレーできるようにしたいからです。どうしても36ホール(マッチ)ですから、後半の集中力を絶やさないことが大事だと思いますからね」。
さて、このマッチ巧者の戦略が、明日の決勝戦で、どう結実するか、とても興味深い。
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