大堀裕次郎は、決勝マッチでも冷静沈着だった。
1番ホールから、いよいよ36ホールマッチの戦いが始まるというとき、ふと対戦相手の杉山智靖を見た。「あ、顔が引き攣っている。緊張しているな。なら僕は、自分からミスを犯してとられないようにしよう」と、自分に言い聞かせたのだ。
確かに杉山は、緊張していた。昨日までの表情もない。昨日までの落ち着いた振る舞い、ショットがない。
「練習ラウンドと同じ気持でやろうと思っていたのですが…どうやら緊張していたみたいです」。
それが自分で気がついたのは、出だし1番の第3打だった。
「あとで、どう考えても、パターを使える状況ではないところから、パターを使っ
ていた。明らかに、それ(選択肢)はないところからだった んです。ですから、やっぱり緊張していたんですね」。
3打目は、グリーンのカラーからだった。少しラフがあって、それを越さないといけない状況。何故か、杉山はパターを無意識に取り出してスト ロークしてしまったのだ。芝に食われて1ピン近くショートした。このホール、負け…。
大堀は、1番に続き2番も奪った。さらに、4、5、6番も奪って瞬く間に4upまで獲った。
次の6番は、杉山が奪い、さらに8番で大堀が奪って4upで9ホールを終えた。
前日の準決勝が終わったあと「前半(18H)は、4~ 5downでもいい。あまり無理をしないで、少し楽な気持ちでプレーして、後半(18Hのマッチ)で、集中できる体力と気力を残しておきたいぐらいの気持ちで臨みます」と言っていた大堀だったが、ゲームの流れは、大堀ペースで進んで行った。
大堀が、これだけ精神的に自分を分析し、相手の心理をも読め、落ち着いてプレーできるようになったのは、実は「今年に入ってからなんです」と 語った。それまでは、ムラッ気がある。すぐに切れる。あるいは、数年もの間、ドライバーに悩まされる、と、順調にここまで来たわけではない。
ひとつのきっかけは、湯原信光との出会いである。
昨年の日本プロシニアで、湯原のバッグを担いた。そのときに、初めて大堀は、プロの上質なゴルフを垣間見た。「シニアの選手の人たちは、ミスしても、それを引きずっている選手は、ひとりもいないんです。確かに、その瞬間は怒るんですけど、ほんとに一 瞬。次の瞬間に切り替わっているんですね。うーん、つまりゲーム中のオンとオフの使い分けが上手で、しっかりしているんです」。
それ以来、湯原を慕うようになった。このオフに湯原から「タイ合宿に来ないか」と誘われて参加した「状況判断や精神状態で招くミスが、今年に入って少なくなったと思います」。
前半の10~15番まで、勝敗が動かなかった。そして、16番で大堀が奪って5upとして、迎えた18番で短い距離のパットを外して、杉山に 奪われて前半(18H)は、4upで、折り返したのである。
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