イーブンパーの首位タイで第1ラウンドを終えた赤間貴夫(岡部チサン)は昨夜、家族に「ベスト20入りを目指すよ」と電話で話したという。しかし、競技ゴルフを始めたのは56歳で全国大会に出場するのが本選手権が初めてという赤間は、言い知れぬ緊張感に襲われていたのは想像に難しくない。
そして迎えた最終ラウンド。赤間は、「ものすごい緊張で…」と1番ホールのティーインググラウンドでは顔が紅潮していた。そのティーショットは左のラフ。うまくフェアウェイに出したが、80ヤードの3打目はグリーンを捉えきれず、1メートルに寄せたアプローチもパーパットがホールをなめてボギー発進。続く2番もボギーと、生命線のショートゲームの不出来で、いきなり2つスコアを落とした赤間は、「大好きなゴルフが、緊張のあまり嫌々になってしまった」と振り返る。
しかし、そんな赤間を救ったのは、2つの言葉と1プレーだった。昨夜、家族との会話の後に、後輩から電話があり、「明日は周りの方々のプレーを気にせず、自分のプレーをすることだけに専念して」と助言を与えられ、今朝には最終組でプレーをする所属クラブの先輩で競技ゴルフへいざなってくれた小川透(岡部チサン)に、「今日は優勝を意識せず、プレーを楽しめ」と温かい言葉を貰った。そして、赤間を救ったのは、やはり得意のショートゲームだった。3番(パー3)で30ヤードのアプローチを「完璧」というスピンが効いたピッチエンドランで30センチにつけてパーセーブ。ここで、「ようやくゴルフが楽しくなった」と振り返る。5番から再び連続ボギーでスコアを落とした赤間だったが、集中を切らさず、8番で90ヤードの2打目をピッチングウェッジで40センチにつけてバーディ。「このバーディで生き返りました。これでベスト10に入れる」と、集中力は研ぎ澄まされていく。
10番ではティーショットを左にミスしながら、20ヤードのアプローチを直接放り込むチップインバーディ。その後はスコアカード通りに「我慢のプレー」で凌ぎ、17番では5メートルのパーパットをねじ込んで通算2オーバーパーで最終ホールに入った。フェアウェイからの3打目。赤間は、「ここでバーディを獲れればプレーオフに持ち込めるかも」と考えていたというが、実はこの時点で通算2オーバーパーは首位タイ。後輩の助言の通り、自分のプレーに専心していた赤間は、「あそこは、バーディを獲りたくて、ピンハイまで打っていった」と3打目をピン奥5メートルに乗せる。赤間自身はプレーオフ進出を賭けたと思っている下りのパットは、見事にラインに乗りホールに消えた。この瞬間、赤間の初出場初優勝が決まったが、本人は、周りにそれを聞かされても、半信半疑で目を白黒させるばかり。先輩の小川に肩を抱かれ慰労されて、初めて赤間自身もウィニングパットを決めたことを信じられたのかもしれない。
「今日は、小川さんが優勝されるものとばかり思っていて、自分は露払いの役目を全う出来ればと思っていた」そう話す赤間は、無欲の勝利に、朝は緊張で紅潮していた顔が、喜びの紅潮に変わっていた。「こんな…自分が全国大会で優勝できるなんて…びっくりです」と最後まで狐に包まれたような表情の赤間。この喜びに浸れるのは、もう少し時間がかかるかもしれない。
|