通算イーブンパーの首位。松本新語(久米)は、今や指定席ともいえる順位で最終ラウンドをティーオフしていった。3番でフェアウェイ右サイドからの2打目は、松の木を超えさせるために高く打ち上げようとして左にミス。アプローチも寄せきれずボギーパットは2メートルを残した。「ここ最近パッティングが好調」という松本は、これを沈めて「ナイスボギーでしたよ」と振り返るが、松本にとっても優勝という2文字を勝ち取ることは容易ではないと思われた。しかし、松本はここから別次元のプレーを見せる。4番で2.5メートルのバーディパットを沈めると、4番では残り145ヤードのセカンドショットを8番アイアンで1メートルにつけて連続バーディ。7番(パー5)も獲った松本は、この時点で通算2アンダーパーまでスコアを伸ばし、後を追う亀井と二宮を突き放した。それでも、「このコースは、何が起こるかわからない。気を緩めると、絶対にスコアを崩す」と集中力を保ち続け、14番で亀井がダブルボギーを叩いた直後の15番(パー3)で212ヤードを4番アイアンで4メートルにつけてバーディを奪い、引導を渡した。
「14番の亀井さんのダブルボギーで気持ちは楽になりましたが…」と話す松本の脳裏にあったのは、熊本空港CCで開催された2011年大会の自分の姿だった。この年、日本シニアオープンでローアマチュアを獲得した松本は、日本シニアでも首位を独走。最終ホールまで優勝は確実かと思われていたが、女子プロツアー競技でも数々のドラマを演出してきたグリーン手前にある池に打ち込みダブルボギーを喫し、プレーオフの末に白井敏夫に逆転優勝を許した。今年もまさにデジャブのような展開。18番のグリーン右サイドには池があり、悪夢が思い起こされるのも無理はない。「2年前のことを言うと、あれなんですが…やはり最後まで気持ちを緩めずプレーしました」と、16番以降もしっかりとスコアカード通りのプレーで、悪夢を振り払う完全優勝だった。「シニアオープンからパットは好調で、今回も多くのバーディを獲れた」と、3日間を振り返る松本。シニアオープンローアマチュアと日本シニア優勝の2タイトル独占を果たした1年は、「春先は調子が悪くて…でも、涼しくなってから練習量も増やせて、この試合に照準を合わせて調整を続けてきた。その結果がローアマチュアと大会連覇に繋がって…自分の理想とするスケジュールだった」と、満足げに笑顔を見せる。
来年、還暦を迎える松本だが、松本と同組でプレーした選手たちは「松本さんは強い。うまい」と口をそろえる。確かに、その飛距離、弾道、アイアンショットの切れ、パッティングの技術…その全てが他のプレーヤーを圧倒する強さを見せ、まさに絶対王者の風格を漂わせる隙のないゴルフを見せてくれた。松本自身も、「55歳のルーキーにも飛距離では引けを取らないと思う。今の飛距離を維持すれば、来年もそこそこやれる」と自信を見せる。仕事との両立を図りながら競技ゴルフを続けていく苦労は、社会人であれば誰もが経験している。その中で、自分のスケジュールをしっかりと組み立て、目標とする試合にしっかりと調整できる松本の姿は、多くの社会人アマチュアゴルファーの指針となり勇気を与えるだろう。
昨年大会優勝のとき、「これでライバルたちと肩を並べた。これからは自分が若い選手たちの壁になりたい」と話していた。松本はこの1年で、その壁をさらに高く積み上げる努力をしてきた。来年、松本はその壁もさらに高くし、ライバルやルーキーたちに立ちはだかるだろう。彼の作った壁を乗り越えることは、簡単なことではないと感じさせる松本の強さが際立つ3日間が終わった。
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