3打差5位スタートの金浩延(宇都宮)は、「今日はパープレーを目標にしよう」と心に決めていた。前半、2番で10メートル以上はあろうかというロングパットを決めてバーディが先行すると、4、5番で連続ボギーを叩いたものの、5番で左ラフからグリーンを目視できない状況のセカンドショットを3メートルにつけてバーディ。続く6番(パー5)も1メートルを決めて連続バーディを奪い、1アンダーパーをマーク。この時点で、首位の塩月と同スコアで並んでいたが、金本人はそれには気が付かず、淡々と自分の目標スコアに向かって集中力を高めていた。
後半、12番で3パットのボギーを叩いたが、13番(パー5)でバーディを獲り返し
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、14番で塩月がダブルボギーとした時点で、両者の差は3ストロークまで広がっていた。「1アンダーパーでプレーできていたので、優勝争いは出来ているかな?とは思っていたけれど…」と、必死のプレーを続ける金。初めて自分がトップに立っていると知ったのは、18番ホールのティーインググラウンドだったという。「そうしたら、一気に緊張してしまって。ティーショット、セカンドショットも体が動かず左へ」とミスが続き、3打目はあわやOBかという左へのミスが出て、金本人も「ドキドキだった」と胸中を明かす。グリーン脇からのサンドウェッジのアプローチも「トップしたり、手前を叩いたら、ダブルボギーもあり得るから」と慎重を期して打ったが、その球は自分がイメージしていた弾道よりも高く上がり、カップに寄せきれない。6メートルのパーパットは、「余裕がなくて…ダブルボギーだけは打たないように」となんとか1メートルほどに寄せて、このボギーパットを沈めた。
多くの選手が苦しんでいた高麗グリーンは、昨年大会の会場である鳴尾ゴルフ倶楽部で経験済み。昨年5位入賞の原動力となったパットを「1年ぶりに取り出して」臨んだ今年は、それまで苦手にしていた高麗グリーンを面白いように攻略して、ついに日本ミッドアマの頂点に上り詰めた。18番グリーンからクラブハウスに向かう途中、誰よりも先に金に歩み寄ったのは、金が師匠と仰ぐ和田博だった。金の初優勝を称え、握手を交わすと、それまで緊張で強張っていた金の表情が、涙をこらえているように見えた。
「ここ5年程、和田さんと一緒にゴルフをさせていただく機会が増えて。その時に技術面やメンタルでもアドバイスをいただいていて」と、なにかと目をかけてくれる大先輩の姿に、緊張感がほどけたのだろう。そして、和田にはもう一言、強く言われていた言葉がある。「タイトルを何時か獲れると思っていてはダメ。チャンスは少ないんだよ。その少ないチャンスを確実に掴みなさい」。2000年の日本アマ、本選手権の打1回大会も制している和田からの言葉は、これまで無冠の金には心に響くものだった。そして、その言葉を反芻しながら、勝ち取った日本タイトル。その実感はまだないというが、「これから、日本タイトルを獲ったプレーヤーとして、成績や技術だけではなく、人間的にもマナーやエチケットでも他のプレーヤーや若い人たちの規範になっていきたい」という言葉に、師匠の和田の背中を追ってきた金の思いが詰まっていた。
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