「結果は考えずに、いつもどおりの自分のゴルフをしよう」
高橋は、そんな気持ちでスタートホールを迎えた。でも、いつもとは違うことに、すぐに気づかされることになる。パーオンした後のファーストパット。手が震えていた。そのままストロークしたが、思うように手は動いてくれなかった。ボールは、カップ手前1メートルほどにショートしていた。パーパット。やっぱり手が動かなかった。でも、ボールはカップに沈んでくれた。
優勝を意識せずにプレーする…そう考えていることこそ意識している証拠。高橋は、そのことに気づいて、優勝を意識しながらのプレーに切り替えた。
3番で3メートルのチャンスを迎えた。手の震えはお
さまっていた。カップ中央から決まった。5番では、第2打で勝負を賭けた。フェアウェイからピンまで120ヤード。「普段なら、ピンを狙う状況ではなかったのですけど、ちょっと自分に発破をかけたくて」敢えてピンを狙った。フェードボールで根元に止めてやる。強い意志のこもったボールは、1.5メートルほどにピタリと止まった。
「負けず嫌い」と広言する。でも、その言葉には裏があった。「自分は、本当は弱いところだらけなんです。だから、“負けず嫌い”と言ったり、そういう振りをしないと自分に負けそうになるので…」
5番で勝負を賭ける気になったのも、弱い自分を押し込めてしまおうとする狙いからだった。ピンそばについたのを確認すると、心の中で自分に語り掛けていたという。
「やるじゃん、自分。上手いじゃん、私」
これで前の組でラウンドする畑岡、同組で首位スタートだった吉本ひかると通算11アンダーパーで並んだ。6番で予想外の出来事があった。吉本がグリーン手前のバンカーからの第3打をホームランさせて奥のOBに打ち込んでしまったのだ。このホールをダブルパーにして脱落していった。高橋も第2打をグリーン奥にはずし、ピンチを迎えていた。寄せられる状況ではなかった。
「ここは無理をせずにボギーでよし」 吉本のトラブルに、逆に冷静になっていた。
前半の9ホールを終えて、通算11アンダーでトップに立っていた。「勝てるかな…」そんな気持ちにさせてくれたシーンが終盤の16番(パー3)の出来事だった。4メートルに1オンしていたボールに佐渡山の第2打が当たった。動いたボールを元の位置に戻した。今度は佐渡山が先にパットした。はずれた。高橋は、このボールの転がりをじっと見ていた。同じライン。「ものすごく参考になりました。自分にはツキもあるかなって感じました。優勝するには、運も味方につけなければいけない、そんなことを誰かが言っていたことも思い出していました」。ということで、バーディパットをカップ中央から決めて2位グループに3打差をつけた。
最終18番(パー5)もしっかりバーディに仕上げて、初優勝に自ら花を添えた。ともすれば「私なんか…」と弱気になる自分を押し隠し、鼓舞するための勝負にもでる。「本当に勝てたんですね。うれしいです。そんな言葉しか出てきません。自信もつきました。もう、負けず嫌いと言わなくてもよさそうです。次は日本ジュニアゴルフ選手権です。勝ちます」
もう、どこにも弱気になる高橋は、いなかった。
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