前日、プレー中断の合図があったとき、新垣比菜(興南高校3年)は4番ホールのグリーン奥にいた。パー3でティーショットがグリーン奥のカラーに止まっているという状況であった。中断を知らせるホーンが鳴って、ボールをマークしてピックアップしながら、新垣は、ちょっと気持ちを揺らせていた。
10番からスタートして、12ホールを消化した段階で4バーディを奪い、通算7アンダーパーにまでスコアを伸ばしていた。「ドライバーショットとショートアイアンの調子がよくなっていて、パッティングもよく決まっていてくれました。なので、できれば、そのままプレーを続けたいな…って思ったのです。1時間以上クラブハウスで天候の回復を待
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っていたのですが、結局、サスペンデッドになり、翌日の仕切り直しとなってしまいました。ショットの調子、パッティングの感覚が違ってしまったらどうしよう。ちょっと、そんなことも考えました」。
今年の新垣は、日本女子アマチュアゴルフ選手権の直前あたりまでスランプに陥っていた。ドライバーショットが安定せず、右にも左にも曲がって、スコアメイクにも苦しまされていた。ボールを曲げたくない気持ちが先行して本来の飛距離も打ち出せない状態が続いた。
「苦しかったです。このまま立ち直れないのじゃないか…という不安もありました。それを打ち消すには、練習しかないとも思いました」。
闇雲にボールを打つのではなく、いかに素振りのときと同じようにスウィングするかをテーマにした。素振りでは、気持ちよく振り切れても、いざボールに向かうと曲がるのを怖がって萎縮してしまう。飛距離が伸びない。そんなことじゃいけないと気持ちを奮い立たせてフルスウィングすると、やっぱりボールはターゲットとは違う方向に飛んで行ってしまう。ジレンマだった。
そこで、ボールを打つ前に、必ず素振りをする。それも、これからボールを打つのと同じスピードでの素振りだ。そして、“ボールに向かって、素振りと同じタイミング、リズム、スピードでスウィングして打つ“という練習を繰り返した。400球の打ち込みには、同じ回数の素振りがプラスされていた。そうしながら、微調整していったという。
6月の日本女子アマ前には、トンネル脱出への出口が見え始めていた。結果にはつながらなかったが、飛距離が戻ったことで手ごたえはつかんでいた。日本女子アマ終了後、さらに練習を続けた。スランプ前よりも飛ぶようになった。そう確信できるところまできて迎えたのが、日本ジュニアであった。中学1年生で初めて出場し、今年は高校3年生。これが最後の日本ジュニアである。「この大会で優勝したい。初めて出場したときに、そう強く思いました。でも、優勝できないまま最後の出場になるところまできてしまったので、今大会は、絶対に優勝するんだ。そう自分に言い聞かせて臨みました」。
猛練習でスランプからは脱出していた。「間に合った」との思いもあった。第1ラウンド、7バーディを奪ったことで、攻めのゴルフを展開しても自滅することはないという確信もつかめた。そこで、第2ラウンドは、攻めと守りにメリハリをつけて、ボギーを叩かないでスコアを伸ばすゴルフへとテーマを1段階高めて取り組んでいた。それが、中断するまでの12ホールでの4バーディ(ノーボギー)という理想の流れを生み出せた要因になっていた。
さて、サスペンデッドになっていた試合は、午前9時30分から再開されることになった。4番のグリーン奥に行く前、練習グリーンで本番を想定してカラー部分からのパッティングで、再開後の最初のプレーとなるストローク、タッチの感覚をつかみ、さらに前日のパッティングの好感覚に変わりがないかも確認した。4番グリーン奥カラーから無難にパーにまとめると、5番からは、なんと3連続バーディで一気に抜け出した。2メートル、3メートル、1メートルとショットを次々とピンにからめ、パットも確実に決めていった。
自らに誓った優勝。有言実行だった。スランプの影は霧散し、トンネルを抜けきった晴れやかで自信に満ちた新垣の新たな姿とゴルフが、そこにあった。
「本当にうれしいです。スランプがあり、そこから脱出できたことで、自分が成長できたという実感があります。こうなるための試練だったのかな…今なら、心からそう思えます」
長いスランプの後に待っていたのは、ひとまわり、いやそれ以上にスケールアップしたオールラウンダーとしての新垣比菜であった。
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