最終ラウンドの優勝争いは、シーソーゲームとなった。最終組の吉田優利と上野菜々子が追いつ追われつの熱戦を展開した。2番ホールの上野のバーディで両選手が通算イーブンパーで並ぶ。4番では吉田がバーディで再びリードし、6番もバーディでその差を2打に広げたのだが、8番(パー3)で吉田がダブルボギーを叩いて(上野もボギー)1打差。吉田は10番もボギーにして両者は並んだ。さらに12番のボギーで、ついに上野にリードを許した。ここが、吉田にとっての大きな分岐点になる。
「トップに並ばれるまでは、それほど緊張することはなく、自分のペースでプレーできていたのですが、追う立場になって、緊張し始めました。いつもの自分
だと、こうなると“この試合に負けても、次がある”と、自分から逃げてしまうところがあったのですが、今回は“絶対に逃げ出さずに攻めよう”と自分に言い聞かせて強い気持ちでプレーできました」
14番(パー5)で上野がピンそばにつけると、吉田は4メートルほどのパットを先に決めて、食い下がる。そして、15番の上野の思いがけないダブルボギーで逆転。しかし、上野もこのまま後退することはなく、続く16番(パー3)をバーディにして、またまた並んできた。17番では、先に打った上野のティーショットがバンカーにつかまった。「自分は、絶対にフェアウェイに打つ!」ここでも吉田の強い意志が働き、その上フェアウェイからの第2打をピン手前5メートルに乗せ、上りラインを決めてリードした。最終18番ホールは吉田が7メートルほど、上野は、それより近い5メートルほどの下りスライスラインを残した。先に打った吉田のパットはラインに乗っていたが、わずかもショートしてパー。上野のパットが決まればプレーオフになる。
上野のパットを見守る吉田。「あのパットは決めてくる。プレーオフだ」と、集中を切らすことなく、待った。
はずれた。ボールはカップ手前で右に切れて止まった。吉田の初優勝が決まった瞬間であった。グリーンサイドではナショナルチームの仲間たちが見守ってくれていた。飛びつかれ、抱きつかれ、祝福された。この仲間たちには、ちょっと遅れをとっているという自覚があった。高校2年生でナショナルチーム入りしたものの、なかなか日本代表チーム、メンバーに選ばれることはなかった。それでも、ナショナルチームの合宿で、コース攻略や集めたデータの分析方法、活用方法などを教えられたことで、「ゴルフ頭脳が鍛えられました。それとプロ競技に出場させてもらったときに上田桃子さんや比嘉真美子さんといったプロと練習ラウンドを一緒に回らせてもらったり、そのときに自分にとっては苦手というか課題だったショートゲームの練習法を教えてもらいました。上田さんには“私は5ヤードの距離を打つ練習を続けている。ショートゲームでは、それに一番多くの時間を費やすかな”とプロの秘密を惜し気もなく教えていただいて、ありがたかったです。本当に多くの皆様に支えられてきたので、この優勝で少しは恩返しできたかな…と思っているのですが、きっと、まだまだ足りないのでしょうね」
明日には宮崎に移動して21日から1週間のナショナルチーム合宿に臨む。ガレス・ジョーンズJGAナショナルチームヘッドコーチはじめ、スタッフも、宮崎入りを前に日本女子アマの舞台だった嵐山カントリークラブにやってきて、吉田の初優勝を見守っていた。吉田のアマとしての競技は、まだまだ続く。
「勝ったという実感が、なかなか湧いてこない。やるべきことが沢山残っていますから、練習です」
どうだろう。「気持ちは強くない」といいながら、実際は強い気持ちの持ち主なのではないか。それとも、日本女子アマが、彼女の気持ちを強くしたのであろうか。
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