抜きつ、抜かれつ…の目まぐるしいシーソーゲームの末、吉田優利に1打差で敗れた上野菜々子は、一瞬涙をこらえた後、胸を張った。最終組で回った安田祐香、吉田優利とは、小学生時代の競技会で顔を合わせ、仲良くしてきた。3人でのラウンドは「楽しかった」と、振り返りもした。
小学校1年生のとき、石川遼の活躍をテレビで見て、「自分もゴルフをしたくなった」という。父親はソフトボールを勧めたが、祖父はゴルフ派で、進路決定は祖父に軍配が上がった。
それ以来、練習に励み、競技にも出場して友達もできたが、6年生のときに一度ゴルフから離れることになる。「父親の教えが厳しくて、怒られてばかりで嫌になったのです」。反
抗期でもあったのだろう。しばらく陸上に取り組んでいると、競技会で知り合った仲間たちからメールが届いた。実は、その中に吉田優利からのものもあった。「どうして、やめたの? また一緒にやろうよ」こうした呼びかけに、上野は再びゴルフへの道に戻った。
トップの座から転落したのは15番(パー4)ホールだった。右ラフからの7番アイアンでの第2打がフライヤーとなってグリーンを大きく飛び越えてしまった。ちょっと深いラフ。第3打のアプローチショットは“ダルマ落とし”となってグリーンに届かず、次のアプローチショットもピンに寄せられなかった。そこから2パットのダブルボギーである。「トップに立って、優勝を意識し始めるようになったら、手が震えてきて…」。そのせいもあったのか。それでも続く16番(パー3)でピン右3メートルにつけ、すぐに並んだ。気合は、衰えていなかった。17番で、また吉田にリードされて迎えた最終18番。最後のチャンスを自分の手で作り出した。5メートルほどのバーディパット。それを決めればプレーオフに持ち込める。「真剣に狙いました。でも、自分で“そんなに緊張して、どないすんねん”と突っ込みをいれたくなるほど手が震えて…。ラインは読めていましたけど、タッチがほんのチョット弱かったために、決められませんでした。今まで味わったことのない緊張感で、終わってみれば、それも含めて一番楽しいラウンドでした」。
練習ではつかめない、試合出場だけでは経験できない。優勝争いの中で、終盤の自分がどうなるのか。それを経験できたことは、これからの上野にとって、2位という結果以上に大きなものになるに違いない。
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