ボギーなしの8バーディで64。飛ばし屋で知られる和久井麻由がビッグスコアを叩き出してトップタイ発進した。何がよかったのか。「とにかく、ドライバーが振れました。それが、自分にとっては何よりでした」
168センチの大型選手で、プロゴルファーの今野康晴にゴルフを教えてもらっている。ドライバーの飛距離は260ヤード。昨年のシーズン初めには、「得意クラブは?」と聞かれると、「ドライバーです」と即答していた。それが、今年は「ショートアイアンです」に変わっていた。理由がある。実は、昨シーズン半ばあたりから、ドライバーショットの不振に悩まされるようになっていた。
「振れば、曲がる。怖くなってしまっ
たのです。だって、OBにしかいかないようなゴルフになっていましたから。そうですね、振るというより、当てにいくようなスウィングしかできませんでした。練習ラウンドでは、思い切りよく振れるし、振り切った方が曲がらないというのもわかっているんですけど、試合になると、怖くなってビビるんです。イップス直前というより、完全にイップス状態になっていたかもしれません」。
関東ジュニアは、あまりの不振に欠場した。関東女子アマでも第1ラウンドに77を叩いてしまった。和久井の夢は、プロになってドライバー平均飛距離で1位になること。そのポテンシャルはあるのだが、曲げたくないという思いばかりが強くなり、振れなくなってしまったら、夢は夢のままで終わってしまう。本選手権に入る前、決めた。「アドレスしたら、あれこれ考えずに、すぐにテークバックして振り切ってしまうこと。曲がったら、曲がった時のことだと割り切って、筋肉が硬直しないうちにスウィングしてしまおう、ということです」
実践したら、殊の外好結果につながっていった。一番硬くなるスタートホール(10番・380ヤード)で、フルスウィングしたショットはフェアウェイをとらえた。ピンまで100ヤード。この第2打を1メートルにつけた。実は、本選手権に備えて、練習してきたのは、ドライバーよりも50度のウェッジとピッチングウェッジのショットだったという。「50度で110ヤード弱。ピッチングウェッジだと125ヤードというのが自分の基準なんです。この2本の飛距離差がちょっと大きいので、ピッチングウェッジで110ヤードから125ヤードまで、しっかりと飛距離差を出してコントロールできるように、打ち込んだんです。エリエール松山は、ショートアイアンを手にすることが多いコースだと知らされていましたから、その対策です」。
構えたら、何も考えずに振り切る。これがいきなりファインショットとなったことで、イップス症状は、ウソのように霧散してしまった。そして、フェアウェイからの各ショットが、次々にグリーンをとらえる。しかもピンに寄っていった。
「練習ラウンドでグリーンのコンパクションが高く感じたので、今日は、ピンまでの距離を頭の中で5ヤード短く設定して打ちました。それも、上手くいきましたね」前半9ホールを4バーディの32で後半に折り返し、3番からは4連続バーディの快進撃。4連続の締めくくりは、第2打をグリーンオーバーさせてからのチップインで「あれは、ごほうびというか、おまけというか…」というバーディではあったが「こんなに気持ちよくゴルフできたのは、本当に久しぶりです」。
これなら、ドライバーの恐怖症からも解放されたのではなかろうか。「いえ、今日は大丈夫でしたけど、明日も同じようにできるかどうかはわかりません。急速な回復状態にあるとは思いますけど、また、今日と同じように、構えたら、何も考えずに振ります。あしたも、それでいいショットが打てたら、ちょっと自分を信じてもいいように思います。うーん、不安4分、期待6分といったところでしょうか。でも不安しかない状態だったわけですから、かなりの回復度だと思ってもいいですよね」。
第2ラウンドに、本当の回復度が見えてくるだろう。練習を重ねたウェッジショットを無駄にさせないためにも、勇気を奮ってドライバーを振り続けなければならない。
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