最終日最終組でのゴルフに寺岡沙弥香は緊張していた。スタート前の練習グリーンで「あれっ、ちょっとストロークの感じが出ない」と感じたという不安もあった。緊張は同じ組でラウンドする仲村果乃や幸田彩里にもあったようで、仲村はスタートホールでいきなり3パットのボギーを叩いた。
相手のミスは蜜の味?
プロの世界では、そんなことも言われるが、寺岡の受け止め方は違っていた。「次は、私も3パットするのではないだろうか…」と、ますます不安をつのらせていたというのだ。実際、2番ホールで不安が的中することになる。8㍍のバーディパットを3㍍もオーバーさせて、返しも決められなかった。
ようやく緊張から解
放されたのが5番パー3ホールだった。5番アイアンでグリーンをとらえ、下りではあったが7㍍ほどのバーディチャンスを作り出していた。もっとも「私はラインをしっかりとは読めないんです」という寺岡は、「まあ、こんなものだろう」と大まかにラインを設定して、タッチだけは合わせるようにボールを打ち出した。これが、うまくカップに沈んだことで2番のボギーを取り戻した。さらに7番パー5では第3打のアプローチショットを3㍍につけてアンダーパーの世界に入った。
「アンダーになったことで、落ち着けました」という寺岡はバックナインでは独り舞台の独走態勢に入った。11番バーディのあと13番からは怒涛の3連続を決めて、2位に大差をつけた。最終ホールをボギーにしたものの、4日間首位に並ばれることはあっても、明け渡すことなく、最後は独走の完全優勝を果たしたのだった。
ウィニングパットを沈めてもリアクションはなかった。「イエーイ! なんてはしゃいで優勝じゃなかったら恥ずかしいと思ったので静かにボールを拾い上げただけだった。ラウンド途中では、他の選手のスコアがわからなかった。3連続の2個目のバーディで「これで(優勝まで)いけたかも」と思ってはいたものの確信はなかった。同組の両選手に「おめでとう」と祝福されてようやく優勝が確信できたという。
高校を卒業後、地元・大阪のベニーCCでアルバイトしながらプロテストに臨んだ(昨年6月、11月の2回)が、2度とも二次で落ちてしまった。アマチュア資格のままで現在に至る。今年もテストに挑戦するつもりではいたが「なんか二次というところで、ビビッてしまっていた」ともいう。だから、本大会の優勝で11月のファイナルへの“飛び級”が決まったことが「何よりありがたいです」という言葉になる。同年代のジュニア仲間が、プロになって活躍している。「早く追いつきたいという気持ちもあります」
アマチュアとして学んだこともある。「こんな大きな大会で勝てたこともそうですが、試合に出ていたことで成長できたと思えることがあるんです。それはコースマネジメント力がついたという実感です。小学生だったときから教えてもらっているコーチからも“ずいぶん頭を使えるようになったな”と言われました」
最終日も4ホールでドライバーではなく3番ウッドでティーショットしている。
本大会前にあったサントリーレディスでは憧れの宮里藍と話す機会があり、「グリーンの読み方や練習のやり方を教えていただきました。はい、この大会でもそのアドバイスを生かさせていただきました。そのことも、優勝に繋がっていると思います。感謝です」
寺岡の心は、すでに11月に行われるプロテスト・ファイナル(茨城・大洗GC)に向かっている。
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