首位と4打差で3位タイにつけた蝉川泰果は、この日、35・33の68をマークし通算8アンダーで終えた。1番でバーディ。続く2番でボギーを叩いたあと「どうもボールが右へ右へと言ってしまう」という一抹の不安が、頭をよぎった。蝉川の性格は、過敏に反応しすぎる傾向がある。これまでならば、そのままずっと引きずってラウンドを終えてしまうこともあったのだが、今は少し違っていた。それは、4月の関西オープンで4打差3位で最終日を迎え優勝争いの渦の中にいたにも関わらずはじき出されて17位タイまで順位を崩した苦い経験。さらに、その後、6月の男子ゴルフ下部:ABEMAツアー、ジャパンクリエイト・チャレンジで逆転優勝した
わずか2ヶ月間での出来事が背景にあったのだろう。
「あのとき(関西オープン)は、もうゴルフしたくないと思うほど落ち込んでいました」というほどだった。「どうしても(事象に)敏感に反応しすぎてしまって、勢い勇んでスタートしても、途中で逃げというか、徐々にトーンダウンする傾向があったんです。そういうやり方が裏目に出る場合もあったものを、18ホールを見据えたゴルフをしたら、メンタル面でも楽になってきたんですね。まずは、パーでいい。それを続けていれば、バーディがやってくるという感覚です。すると土壇場で伸ばせるゴルフが見えてきたんです」優勝したことでさらに自信につながって、この日のラウンドでも、切り換えができたのである。
その切り換えの瞬間が、7番、パー5の第1打だった。「ボールが右へと行ってしまう。ならば、と思って、いつもと逆球を打ってみようと思ったのが、良かったんです。そのホールでバーディを奪えて、吹っ切れましたね」それが後半の3つのバーディに繋がったのだという。
もともと蝉川は、ドロー・フェードと自在に打てる選手だ。たいがいはフェード系で打っていたティショットで、思い切って逆球を打って成功したことで、修正が出来上がった。関西オープンのどん底、挫折とAbemaツアー優勝の栄光。これをわずか2ヶ月あまりで味わったことで得た自分のゴルフ観。18ホールを俯瞰して見て、その全体の流れの中に1ホール、1打というマネージメントができたのだ。「もちろん、この大会にも勝ちたいですけどね。最終日も、今日のようなメンタルでいければ……」という。
彼の夢は「誰からも、応援される選手になりたい」ことだと言ってくれた。
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