最終日の18番パー4ホール。荒木は4UTの第2打をバーディチャンスにつけた。同組の菅も2オンしていた。菅4アンダーパー、荒木3アンダーパーで迎えたホールだった。
このバーディパットを決めれば土壇場で菅と並ぶという状況だったのだが、荒木は勘違いしていた。「決めれば…」ではなく、「決めても…」と思っていたのだ。「決めても…」の後は「1打届かない」。そうなのだ、実際は1打差だったのに、2打差をつけられていると思い込んでいた。緊迫の優勝争いがそうさせたのか、自分のゴルフの内容が悪く、そこまで気が回らなかったのか。
最終日の荒木、ドライバーショットが荒れていた。1番でいきなり隣ホールに曲げて
のボギー発進となり、その後もアプローチショット、パッティングでなんとかパーセーブするという流れが続いた。7番パー3ホールをバーディとして、ようやくスタート時点のスコアに戻したものの、自分のゴルフをどう立て直すかに気持ちを奪われていた。
10番パー3ホールで5番アイアンのショットでバーディチャンスを作り出し、これを決めた。この段階での状況をまとめてみると、最終組のカオと荒木が通算4アンダーパーで並び、10番をボギーにした菅が1打差の3位となっていた。
迎えた11番ホール。荒木のドライバーショットが、また大きく曲がった。隣ホールまで飛んでしまい、2打目はフェアウェイに戻すだけ。そして、そこからの3打目はバンカーに。4オン2パットでダブルボギーにしてしまった。これで2アンダーパー。菅は逆にバーディを奪って、このホールだけで両者には3打の差がつく結果になっていた。
「せっかく10番でトップに並んだのに、何をやっているんだろう」と荒木は自分に腹を立てていた。
カオが12番をボギーにして3アンダーパーに後退する。直後にトップに立った菅も13番をボギーにして通算3アンダーパーとなって、再び両者がトップに並んだ。荒木は1打差。そこから菅が14番のバウンスバックで一歩抜け出した。15番では「気持ちを切り替えた」という荒木がバーディを決めて上位3人は菅(-4)、カオと荒木が(-3)となった。
終盤の17、18番ホールで連続ボギーを叩いたカオが脱落。17番をパーにした菅、荒木が-4と-3の1打差で最終ホールを迎えたはずだった。菅は、それを理解していた。荒木は、これだけごちゃごちゃした展開で、おまけに自分の調子が悪く、1打差ではなく2打差で最終ホールを迎えたと思い込んでいたのだった。
荒木がバーディを決め、菅がパーで両者並んでのホールアウトとなり、優勝は10、11、18番を使ってのサドンデスプレーオフに持ち越されたことを知った荒木は「えっ?」である。
本当に気持ちを切り替えられたのは、それからであった。
プレーオフ1ホール目の10番パー3ホール。先に打った菅のティーショットはピンに向かったが、わずかにショートして花道に止まった。荒木は5番アイアンを手にして、菅のショットを見守っていた。そして、一旦はアドレスに向かったが、キャディーバッグのところに戻り、UTクラブに持ち替えて仕切り直した。「フウカ(菅楓華)がショートしたので、考えていたよりも風(アゲインスト)が強くなっていると思って。持ち替えました」
そして、プレーオフになったら「攻めるしかない」と本来の持ち味である強気のプレーで池越え、バンカー越えのグリーン右奥の狭いエリアに立つピンしか視線に入れず狙い打ちした。この切り替えが、ピン手前2・5㍍につけるバーディチャンスを作り出し、菅がアプローチで寄せた後にズバリと決めて見せた。
「うれしいです。目標のひとつにしていた大会で優勝できたことで、ちょっと自信がつきました。次は日本女子オープンの最終予選会を突破して、本戦に臨みたいです」
荒木の挑戦は、まだまだ続く。
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