実力と実績を兼ね備える杉浦悠太と中野麟太朗を相手に、本選手権初出場の小林匠(大阪学院大学1年)は、「優勝争いの緊張感というか、自分が思ったよりは緊張していないなと思っていました。良い緊張感ですかね」と振り返るが、スコアは思うようにいかない出だしとなった。2番でボギーを叩き、バーディ発進の杉浦に並ばれると昨日のホールアウト後には「最終ラウンドは全部のパー5でスコアを伸ばしたい」と目論んで迎えた6番(パー5)。4番アイアンで放ったティーショットを右の木に当てて、まさかのOB。2つ目のボギーで杉浦に逆転を許してしまう。しかし、ここから小林の強心臓ぶりが発揮された。「自分が1年生なので、杉浦さんと中野
さんにはチャレンジする立場。必死でついていこうと思いました」と8、9番のバーディで再び単独首位に立つと10番も決めて3連続バーディを奪取してみせる。直後の11番(パー3)でボギーもバウンスバックで先輩2人とのデッドヒートを続けていく。後を追う中野が15番からの連続バーディで首位タイとなっても「並ばれたときに、意識してしまったらスコアを落としてしまうことが多いので、なるべく優勝とか追いつかれたということを意識せず、他のことで気を紛らわすというか……意識しないようにしました」と、自分のプレーに集中し、17番で115ヤードの2打目をピッチングウェッジでピンを刺す見事なショットでバーディを奪取。
中野に1打リードをとると、最終18番(パー5)は255ヤードのセカンドショットを5番ウッドでグリーン奥に運ぶ。20メートルはあろうかという下り傾斜で順目のイーグルパット。対する中野は2打目を2メートルにつける会心のショットで、こちらもイーグルチャンスにつけていた。この痺れる場面でも、小林は「焦りはなかった」と冷静さを失わず、このパットを50センチに寄せてみせた。中野は2メートルを決めきれずバーディ。小林が慎重にウィニングパットを沈めて、初出場初優勝を決めた。
最後の場面、小林が落ち着いていた理由を、「練習ラウンドであの場所からパッティングをする可能性もあるかと思っていて、かなり練習していた」からと明かしてくれた。周到な用意と落ち着きぶりは、末恐ろしい選手の出現を印象づけた。
高校時代は、関西ジュニアゴルフ選手権を制したことはあるものの、全国タイトルには無縁。さらに腰を痛めてしまい、1年ほど練習が出来ず、痛みが癒えても再発の恐怖から思うようなプレーが出来なかったという。そんな苦しい時期を過ごして、今春に強豪の大阪学院大学に進学。直後に、「このままのゴルフでは4日間通してプレーすることは持たない」とスウィング改造に取り組んでいるところだという。「最終組で杉浦さんと中野さんと一緒にプレーをして、2人ともミスはされるのですが、大きなトラブルにはならない。自分もミスをしても許容範囲に残せるぐらいにしたいと思いました。2人のプレーは本当に勉強になりました」と、スウィングだけでなく日本トップレベルのマネジメントにも大きな刺激を受けたようだ。
成長途中とも言える今年、いきなりの日本学生のタイトル奪取には、「正直、まだ実感が湧いていなくて。フワフワしています」と、プレー中の強心臓とは変わって、初々しさを見せる。小林は8月23日に19歳の誕生日を迎えたばかり。「日本学生の2日目に19歳になって。自分で最高の誕生日プレゼントを手に出来ました」と最後に笑顔を弾けさせた。
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