ゴルフ競技は、個人スポーツである。しかし、現代のトップ選手たちは、アスリートを中心とし、コーチやスポーツ医科学の専門家を含めたチームとして、試合に臨んでいる。世界No.1のアマチュアゴルファーとしてマスターズを迎える中島啓太もまた、JGAナショナルチームのスタッフを中心としたチームで、夢舞台に臨む。
【チームとして】
4月7日、初めてのマスターズに挑戦する中島啓太選手は「チームとして」という言葉を多用しながら、1月のソニーオープン以降のこの2ヶ月間の準備を振り返る。「コロナウイルスで、実際に会って指導を受けることは出来なかったですが、日本ゴルフ協会(JGA)のナショナルチームヘッドコーチのジョーンズさん、そして、フィジカルコーチの栖原さんとは、日本に居るときからインターネットを介して、準備を一緒にしてきました」と、月曜日のプレスカンファレンスで言及した。
中島選手と栖原氏は、週に1度、東京のトレーニング施設に集合しフィジカルトレーニングを行ってきた。ジョーンズ氏は、そのタイミングに合わせてインターネットを介してコーチングを行った。新型コロナウイルスの影響で、直接会って強化合宿が出来ない。しかし、それは世界への挑戦の言い訳ではなく、この5,6年でJGAナショナルチームに新しく生まれた「Just Keep Going, JKG」というコアバリューが更に強まるきっかけに過ぎなかったとも感じる。問題は、困難そのものではなく、それをどう捉えるか、人間やチームの考え方の問題なのである。
マスターズの開催地であるオーガスタでは、JGAがサポートハウスを用意した。スポーツ選手に特化した食事を提供する橋本恵氏が、日々の体調や疲労度合いに合わせながら食事や補食を提供する。またその献立は、JGAのスポーツ栄養士の金子香織氏が中心となり、2021年に延期された東京五輪のゴルフ競技で運営したゴルフ・ジャパン・ハウスで蓄積した経験をもとに、計画されたものだ。
また、キャディバッグを担ぎ共にコース内で戦う相棒は、JGAのナショナルチームアシスタントコーチを務めるクレイグ・ビショップ氏だ。ビショップ氏は、2016年に全米アマとアジアアマを制覇したオーストラリア・パース出身のカーティス・ラック選手を幼少期からコーチングしてきた実績を持ち、長期的な視点でサポートが出来るコーチである。
全ての「チーム」スタッフが帯同しているわけではない。JGA育成強化プログラムの中では、上記の専門分野以外にも、スポーツ心理の専門家、動作解析の専門家、ゴルフのラウンド分析の専門家が、それぞれの選手が自分のベストへ少しでも近づけるように、各分野のサポートを行う。これは世界のトップゴルファーや強豪国においては当然の育成強化の構造であり、世界基準なのだ。大事なのは、教科書に書いていない、その先に有るそのアスリートに特化したサポートなのだ。科学に基づき、各専門分野の中のエッジ(先端)の研究やその応用を知った上で行う即興的な指導の質の競い合いである。
【時間のながれ。先輩後輩。】
JGA育成強化プログラムにおいて、今年のマスターズは特別であり、新たな歴史の起点となる。今週の日曜日に結果がどうなろうと、その歴史の変化は表面化しており既に始まっているのだ。世界もそれに気づいている。
昨年のマスターズで悲願のメジャー制覇を達成した松山英樹選手。2回目の出場を果たした金谷拓実選手。その2人の背中を追うように昨年のアジアアマを制し、マスターズへの切符を掴んだ中島啓太選手。彼らは共にアジアアマを制し、世界アマチュアゴルフランキングで頂点に上り詰めた。まるで松山選手が、バトンを繋ぐように、自身の後に来る後輩に、レガシーを残し続けている。
この3人が、過ごしてきた幼少期、高校や大学時代の努力、それぞれの葛藤と工夫がそこにあったに違いない。松山先輩が開いた扉に飛び込んでいく金谷選手と中島選手。この2人は、2020年、2021年と連続して日本人が世界アマチュアゴルフランキングNo1に与えられるマコーマックメダル受賞者である。2年連続で何かが達成されるには、偶然という要素を排除して、何か確固たる基盤を作ったうえで、質の高い即興的でかつ構造化された判断を繰り返すことが重要である。その基盤が完成したとは言えないが、その設計図は未来へ向かって進む道をハッキリと照らしている。
【楽しむこと】
チームワーク、そして先輩から受け継ぐレガシー。これを聞くと、選手本人はプレッシャー
を感じるかもしれない。しかし、ヘッドコーチのジョーンズ氏は言う。「この挑戦を楽しみなさい」と。子供の時から見た夢の舞台に、立つこと。そんなことを味わうことの出来る機会は限られている。この経験の全てを吸収し、上手く行ったことも、まだ足りなかったことも、全てが未来への糧となっていく。それをチームで経験し、一緒に進む。だからこそ、遠くまで力強く進み、大きな夢を叶えられるはずだ。
ゴルファーの夢舞台で中島啓太と日本チームの世界に向けた挑戦が始まる。
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