「日本アマで勝ってから、僕の周りの環境も僕自身のゴルフもガラっと変わりました。いいスコアが出るんですよ。勝負どころのパットが入るようになったし、ドライバーの弾道も落ち着いてる。取りこぼしが少なくなりましたね。今回の優勝は大きな自信になりましたが、一方で日本アマチャンピオンという称号を得たからには簡単に負けるわけにはいかないという不安な気持ちもあります。それがいい結果に繋がっているのかもしれません。やっぱり今まではツメが甘かったんだと思います」。
その日本アマチュアゴルフ選手権競技から約1カ月後、日本学生ゴルフ選手権競技が開催された。ここでも甲斐は日本アマチャンピオンの名に恥じない戦いぶりを展開。初日からトップで走り、3日目に中島徹(早稲田大学)に並ばれるも、最後は1ストローク差で逃げ切って優勝をおさめた。
「3日目に中島君に並ばれて、かえって身が引き締まる思いがしました。差が開きすぎていると自分自身油断してしまう」。
土壇場での甲斐の強さはこの大舞台で再び証明された。
「日本学生こそ、タイトルを獲る最後のチャンスだったので悔いの残らないよう精一杯プレーしようと思いました。攻めるべきところで攻めて、我慢すべきところで我慢する。昔は例えばパー5ホールなら無理やり2オンを狙っていたし、パー4ホールのティショットも『少しでも前へ運ぼう』という事しか考えてなかった。それが今は違います。我慢して18ホールを回っていれば必ず何度かチャンスが来るので、そのチャンスに攻めるようになりました」。
持ち前の謙虚さに加え、瀬戸際に立たされて手に入れた攻撃的な姿勢が甲斐を一回り大きく成長させた。また、成長という面ではナショナルチームの一員として国際試合でプレーしたことも大きな糧となっている。日本学生ゴルフ選手権で優勝した後、甲斐はオーストラリアで行われたノムラカップアジア太平洋アマチュアゴルフチーム選手権にも出場した。
「日本と海外では、同じゴルフという競技でも雰囲気が全然違いますよね。コースも難しかったです。ほとんどのグリーンが手前から刈り込まれていて……。全英オープンで見るようなバンカーもあったし、すごくいい経験になりました。今まで国際試合には4回ほど参加させて頂きましたが、海外の試合は比較的相性がいい方だと思います。いつかは海外にじっくり腰を据えて戦ってみたいです」。
海外挑戦とともに「ゆくゆくはプロへ」と考えている甲斐は、近い将来また尊敬する清田や宮里と同じ舞台に立つことになるだろう。そこは上級生も下級生もない実力だけの世界。常にギリギリの勝負を強いられる厳しいプロの世界は、追いつめられてこそ力を発揮する甲斐にとって最高の環境なのかもしれない。
一方で、まだアマチュアゴルファーとしての仕事は残っている。将来のことを本格的に考えるのは、日本体育大学ゴルフ部のキャプテンとしての責務を全うしてから、と甲斐は心に決めている。
「やはり僕たちは親がいてゴルフをさせてもらっている身なので、親に対する感謝の気持ちは忘れちゃいけないと思います。最近、学生でもよくクラブを叩きつける人を見ますが、そういう態度は良くないと思います。技術うんぬんを追求する前に、まずはマナーや礼儀を大切にしたいですね。僕はもうすぐ学生を卒業しますけれど、そういう部分はこれからもずっと大切にしていきたいし、後輩にも大切にしていってもらいたいと思います」。
大きく、たくましく成長した甲斐の背中もまた、多くの後輩の目標となっているに違いない。 |