まるで一流の役者が演じるギリシャの無言劇を鑑賞しているのかと錯覚するほど静かな戦いであった。バシ!というティショットの金属音。ドス!というアイアンショットのターフをえぐる音、グリーン上のピン近くに止まるボールの落下音はない。優勝を争うふたりの間に会話はないし、ギャラリーも少ないので、まばらな拍手が時折起こるだけ。限りなく静かな、クールな戦いだった。
「韓国の選手は感情がないのか? と思いました」と準決勝で金庚泰に惜敗した宇佐美祐樹(鷹GC)が言ったように、韓国トップアマチュアふたりのプレースタイルは限りなく沈着冷静なのだ。どんなトラブルに見舞われても、慌てず騒がずポーカー・フェースを崩さ
ない。バーディーパットを決めても、表情ひとつ動かさない。常にクールなのだ。
金庚泰と康晟訓(カン・スンフン)の韓国ナショナルチームのランク1位と2位で、延世大学(Yonsei University)2年生と1年生の先輩後輩の争いになった日本アマは、どちらが勝っても韓国アマチュアの3連覇になるだけに日本のファンがグリーンを取り囲むような光景さえ見られなかった。梅雨の晴れ間となった東広野ゴルフ倶楽部のコースは緑深い丘陵にあり、人家も見えない山間にある。その緑野のフェアウェー・センターを歩くふたりは韓国ナショナルチームのユニフォーム姿。金がライトブルー、康がオレンジのシャツにふたりとも純白のパンツとシューズ。なんとも目に鮮やかな色合いなのだ。
前半の18ホールが終わって金が3アップしたのは康のショットがブレていたからで、「彼のスウィングは素晴らしいのに、ショットが曲がっていたので少しだけ、気持ちに余裕が出来ました」と金が試合後に語ったほど。1アンダーパー・ペースの金に対して、康は2オーバーパー・ペースだったのだから、それも無理はない。
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