アッと驚く大逆転。18番。青木は6メートルのフックラインのバーディーパットをど真ん中から決めた。右手を握りしめ3度4度とガッツポーズ、大歓声の中、顔面が紅潮した。
「俺の人生の巡り合わせかな。59歳の時に米ツアーで勝って以来勝ってないから、追いかける展開がよかったのかな。16番でこれ以上ない難しいパットが入ったから、18番も入れることができたんだ」最終組から2組前。1番パー5でバーディーが取れず「これでダメか」と思ったというから優勝は意識していた。長いゴルフ人生、青木はいつも諦めない。
3番で8メートル、6番で4メートルを入れるバーディーも、7番パー3でアプローチをミスしてボギーが
でた。だが、このあとからが真骨頂。8番4メートルを入れアウト34,通算7アンダーパーでインに入るとエンジン全開だ。
10番3メートル、13番5メートル、15番はチップインかというナイスアプローチでバーディー。通算10アンダーパーにスコアを伸ばし、逃げる室田に1打差と迫った。
迎えた16番。グリーン前面に大きな木がたちはだかり、距離感の難しいパー3。青木の6番アイアンのショットはピン左2メートル。「打ちすぎれば抜ける。打てなければショートする。きょう一番の難しいラインだった」後で振り返る試練のパットはフックラインをころがりカップ右からくるりと回って入った。そして18番。前日右林に入れて苦戦したティーショット「スプーンで行こうか」と迷ったが、ドライバーでフェアウェイ中央。6メートルのウィニングパットへとつなげた。
65歳の優勝。「エージシュートを意識した」という。しかし、練習ラウンドでそのことを’公言”しているあたりが青木らしい。千葉県の我孫子ゴルフクラブの後輩、海老原清治は練習日に青木が「ここは65なら出るよ。64は無理だが、65なら出ると思う」というのを聞いたと明かした。65が出る。そう口にした瞬間、その気になる。勝負師の条件があるとすればそんな瞬間が大きな要素だろう。
「最後のパットはハワイオープンで”打った、入った”と同じだよ。勝とうなどと思ったら、入らないよ」83年、118ヤードからイーグルショット決めた奇跡のショットを思い出した青木は「男、青木、プロゴルファーでよかったよ」笑顔とともに心の中から叫んでいた。
主戦場とする米チャンピオンツアー、02年のインスティネットクラシックで59歳で優勝して以来のビッグタイトル。そのアメリカでは今季18戦で36位が最高成績。不満だったがこれで気持ちも晴れた。60歳代での優勝は夢だった。今季、ヘール・アーウイン(米)が61歳7ヶ月、史上6番目の年齢で優勝したとき「おれは負けない」とライバル心をむき出しにした。65歳の優勝はその米チャンピオンツアーの最年長優勝記録、1985年のヒルトンヘッド・シニアインターナショナル。マイク・フーチェックの63歳を上回った。
「アメリカでごちゃごちゃになったゴルフが、これで立て直せる。節制し、トレーニングをして好きなゴルフをやっていける…目標ができたことがうれしい」
エージシュートで大逆転優勝という快挙を達成。しかし青木には、その輝かしいゴルフ人生の通過地点でしかない。あらためて世界の青木のすごさが存分に出た大会だった。
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