「スタートの直前までは、名前を意識していた」という松山の1回戦の相手は、昨年大会ベスト4の薗田峻輔。優勝候補筆頭と目される強豪を前にした緊張も、「1番でリードを取られたときには、薗田選手を意識することはありませんでした」と2番からは目の前の1打に集中する普段の自分を取り戻した。「ショットの調子は相変わらず悪いです」という松山だが、その後のプレーは持ち前のショートゲームが冴え、薗田に一度もリードを許さない磐石の内容で、4and3で勝利を収めた。周囲には番狂わせの感もあったかもしれないが、「付け入る隙がなかった」という薗田の言葉が表すとおり、松山からすればこの勝利もラッキーとはいえないだろう。
物心つく前から、父親に連れられてゴルフ場を訪れるようになった松山は、月例競技に勤しむ父親を待つ間、時を忘れてアプローチに没頭した。遊びから覚えたアプローチは、年齢を重ねるにつれ松山の武器となる。ティショットをミスしても、得意のサンドウェッジを使ってパーをセーブするのは、松山の真骨頂だった。薗田を下した勢いに乗っての2回戦。藤本との争いも5番ホールまでに4upを奪い、このまま一気にベスト8の座を射止めるかと思われた。怖いのは、油断だけ。松山もそれは自覚して、「気を緩めないように自分に言い聞かせていました」と振り返る。しかし、このリードが徐々に松山のリズムを崩してしまうのが、ゴルフの難しいところだ。
12番で藤本とオールスクウェアになった松山は、14番のパー5のセカンドショットで思いもよらぬシャンクが出る。「最後まで負ける気はしなかったけれど、振り返ってみれば、少しは油断もあったかもしれない」結局、藤本に寄り切られ、惜しくもベスト8入りはならなかった。「初めての日本アマでしたが、緊張はありませんでした。でも、地元の四国にはここのようなコースは経験できない。もう一度、この難しいセッティングでプレーしたい」とさばさばと話す松山の胸に去来したのは、悔しさよりも、充実感かもしれない。四国の地から新鮮な驚きをもたらした逸材は、去り際も飄々としたものだった。
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