これぞ、運命の悪戯というのだろう。2回戦の“マッチ21”で、昨年の決勝戦がここで再現されたのだから。2007年の第92回大会は愛知CC東山で行われ、小林伸太郎VS 田村尚之の決勝戦だった。熱戦は36ホールを終わっても決着が着かず、エキストラ5ホールに及ぶ大熱戦だった。しかも、41ホール目に小林がショートアプローチを直接放り込む劇的な幕切れで、ゴルフファンには記憶に新しいシーンだろう。
したがって、今回の2回戦の対決は昨年の敗者・田村にとっては絶好のリベンジの機会到来かと思うのが普通だが、本人にしてみれば「早すぎる対戦カードになってしまった」と悔やむ気持ちだったらしい。実はもっと後、「決勝
戦とはいわず、たとえば準々決勝とかならいいのに、とは思いました」と言う。
この俗にいう“因縁の対決”は素晴らしい幕開きでスタートした。1番(525ヤード・パー5)で田村のアイアンによるセカンドショットが追い風に乗って2オン。カップ奥に2メートルに。これを沈めてイーグル発進なのだ。続く2番も1メートルをバーディー。この時点で2ダウンの小林は「あれ?今度は負けるのかな!」と思ったと言う。
しかし、小林の優勝経験はダテではないらしい。3番(158ヤード・パー3)で3メートルのバーディーパットを強気に打って決めると、小林より近い位置に乗せた田村のパットが外れるのだ。「あのパットで救われました。気持ちも落ち着いたので、5、6番ホールを獲れた」と試合後の小林は言う。小林の1upでインに入ると、ドライバーの飛距離で40~50ヤードの差をつける小林が押し気味にゲームは進む。しかし、小林の2upで迎えたドーミーホールの17番、田村の粘り強さが発揮される。このコースで“最も難所のグリーン”と噂されるジェット・コースターのようなアンジュレーションのグリーンで、ピン奥6メートルに付けた田村が強引にねじ込んだのだ。「外せばゲームが終わりですから、強く打ちました。それにしてもよく、カップの縁に引っかかって入ってくれました」とは正直な田村の感想だったろう。
しかし、田村の“粘りのゴルフ”は“タムラ・ワールド”と呼ばれ、対戦相手の選手から「いつの間にか負けてしまう」と恐れられるマッチの強者。その神通力も最終18番で息切れした。ティショットを右に押しだし、林の中。しかも前上がりの斜面でラフ。前方の木がスタイミーになる状況で、5番アイアンでグリーンを狙ったが、ショートしてバンカー。小林が花道からOKに寄せ、バンカーからのショットをカップオーバーして万事休す。両者が握手した瞬間、「疲れた。田村さんとはもう対戦したくない!」と小林が悲鳴のような声を出した。それもそうだろう。息詰まる熱戦が見る者を虜にするほどの内容あるゲームだったからだ。
「昨年の勝ちがフロックと思われないようにもう一度、勝とうと思いました。でも、田村さんの職人技のような小技を自分の目で盗みたいので、また対戦したい」とつい先ほどとは違う試合後の感想だった。
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