第1ラウンド前夜…。武蔵カントリークラブ・豊岡コース(埼玉県)の周辺は、驟雨に見舞われた。ときおり雷を伴う雨で、コースのコンディションは、選手たちの思惑に、少なからず影響を及ぼした。
「雨が天の恵み」という山下和宏と「雨で、予想が少しずれた」という矢野東。この二人が、同じ組でスタートした。第1ラウンド、山下が4アンダーパーで首位タイ。矢野が、2アンダーパーで10位タイ。
「出だし3ホールは、穏やかにパープレーでいこう」と山下は、内心恐る恐るのスタートをイメージしていた。それには、理由があった。「実は、左の肩胛骨が痛くなって、練習ラウンドもできない状態だったんですよ。月、火曜日と治療に当たっ
ていて、クラブも握らず、練習ラウンドもできずに悶々とした2日間を過ごしていたんです」
ようやく練習ラウンドができたのが、水曜日。それも「ドライバーが、230~240ヤードほどしか飛ばせなくて、これはどうなることやら、と思っていたんです」
ところが、いざ試合が始まると、出だし1、3番とバーディースタートだった。4番ホールでダブルボギーとしたものの「ショットが蘇っているな」という良いイメージが残って、その後、7、8番、さらに10、12番ホールとバーディーを獲って4アンダーパー。
「このところ、アイアンショットが、引っかかって左に行く傾向があったのですが、ちょうど肩胛骨を痛めて悶々としていた2日間のうちに、自分のスウィングをビデオでチェックしてみたんです。あ、これだな、ということに気がついてそれを治してみたら、ショットがよくなったんですよ」といい、アイアンショットの復調が、そのままドライバーショットにも反映されたのだ。
「欲を出さず、キャディの指示通り。攻める、守る。ピンを狙う。狙わない」など忠実なマネージメントをやり通した。
「天の恵み」が手伝ったのは「この小さな、堅く、速いグリーンで、ボールを止めるには、大変な体力が必要なんですよ。昨日の雨で、ボールが止まってくれることは、僕にとっては、ほんと、天の恵みです。できることなら、明日も……」
山下にとって、日本オープンは「憧れのステージ」だったという。高校生のときに、琵琶湖CCで開催された日本オープンを観戦して以来、いつかここで、という気持ちが強かったのだという。今季、ANAオープン2位、サンクロレラ・クラシック4位など、ベスト10入りが7回と好調。「こういう順位(上位)にも多少なれて来ましたから(笑)、あとは、3日目の後半以降ですね」最終ラウンドに、優勝争いの渦の中で、弾かれないという強い意志を感じた。
「僕としては、もっと、グリーンが速く、堅い。ラフからもややこしいって想像していたんですよ。昨日の雨で、ちょっとイメージがズレていましたね」というのは、2アンダーパーでホールアウトした矢野東。
「グリーンが止まりやすい。ラフからでも、なんとかなるという気持ちが、無理してドライバーを使ってしまったというケアレスミスもありました」と反省する。同じ組の山下も「矢野は、ドライバーの使いすぎだったのでは……」というほど、攻めた。
「でも、それも含めて満足するラウンドだったと思います。なにが、といえば、今週は、ともかくショットが凄くいいんですよ。このまま僕としては、もっと天気がよくなって、コースの本性を表してくれないかと、内心思っています」それには、理由がある。「ショットがいいということと、フェーダーの僕には、このコースは相性が合う、有利だと思っていますし、グリーンが小さいということで、高弾道でフェードというのは、攻める武器になるわけです。ですから難しくなればなるほど、微妙な差になりますから、もっと難しいコンディション、大歓迎です」
今季は、昨シーズンの成績を比較すると、物足りなさを感じる。それは「反省です。もっと、もっとという気持ちが強くなりすぎて、現状を満足しない自分がいたのだと思います。それはそれで、苦しかったわけですけど…」という矢野は、何かが吹っ切れた感じがする。この山下と矢野にとって、明日以降の天気は、どう味方にできるのだろうか。
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