狭いフェアウエイ。難しい深いラフ。7,084ヤードでパー71…たっぷりと距離があって、選手たちの攻略を阻むセッティング…。これが今年の愛知カンツリー倶楽部だ。
最近の世界のメジャートーナメントがそうであるように、進化したクラブやボールによって様変わりしたゴルフに対抗するように、セッティングもどんどん進化している。かつて、難しい…と選手たちを唸らせたものが、いまでは、そうでもないと言われることすらある。それは体操競技が、ウルトラCと呼ばれた難度の高い技術から、いまではE難度までランクがあるのと似ている。
そこで選手たちが取り入れたもののひとつが、弾道の高い球筋を出せるスイングである。例えば、
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ティーインググラウンドから山を越えてショートカットする弾道。かつては、不可能と言われていた状況が可能になっているケースが多い。また、グリーンを狙うショットでも、その行く手に木がそびえ立っていれば、ドローやフェードをインテンショナルにかけての球筋を駆使して、ピンを狙っていく。あるいは、ラフからのショットが、出せない、読めない、止らないというケースでは、グリーンの手前から転がしていく攻め方を考える。
ところが、いまの若い選手たちのゴルフは、高い弾道で、障害物を軽々と越して、いとも簡単にグリーンに乗せていく。深いラフからでも、さらに高い弾道で、上から落とすようにして、ボールを止める方法を選ぶ。
「1年かけて、高いボールが打てるスイングに、徹底的に改造しました」と言うのは、この日、1アンダーパー。通算3アンダーパーで6位タイにつけた安本大祐である。東北福祉大ゴルフ部出身。池田勇太の1年後輩。3位につけている松山英樹の5年先輩である。北海道出身で、今年の北海道オープンで出場資格を得て日本オープンにやってきた選手である。
2008年北海道アマ優勝。日本アマ、ベスト32。2007年日米大学ゴルフ選手権優勝などのアマチュア時代の戦績がある。
「僕の武器は、飛距離ですけど、プロ転向して、ツアーで戦っていくためには、高い弾道が出せないと戦えないと思って、一念発起で改造しました」と言う。普段、千葉県の北谷津ゴルフガーデンで練習し、所属のティーチングプロの三上幸一郎にコーチを受けている。
「自分では、若い(23歳)と思っていますけど、次から次へと後輩たちいが出てきて(笑)。まるで追われているような感じですよ」日本オープンは、初出場。いままでは、テレビを観ていて「あー、難しそうなセッティングだなぁ」と思っていたそうだ。
練習ラウンドで池田勇太と回って「ここはラフばかりだけど、刻もうと思うとスイングも気持ちも委縮するから、ガンガン行けよと言われて、その通りのゴルフをしました。ショットもパットもいいですけど、運にも恵まれた2日間でした。ラッキーで助けられたケースが、いくつもありましたから」と言う。
高い弾道…。例えば、第1ラウンドの18番ホールで「トラックマン」という特別の機器で計測しているデータによると、高弾道の1位は、谷口拓也で、放物線の最高点が44ヤード(約40メートル)。ちなみに石川遼は、36.57メートル。松山英樹が27.52メートルである。そして今季の米ツアーの高さの平均が、27.15メートルで、最高点に到達しているのは、米ツアーの飛ばし屋ナンバーワンのJ・Bホームズで、35.93メートルである。
かつて、高弾道の球筋で、ビッグキャリーを出すのを「鯨の背中」と呼んでいた。鯨の中に入って底部から、背中を見上げるような弾道という意味である。これはドライバーのデータだが、グリーンを攻めるときに、ラフからでも、真上に上げて、上からボールを落とせば、止りやすいという利点もあるから、いまは高い弾道のショットが主流になっている。
今回も上位に来ている選手たちは、その高い弾道で攻めて、深いラフを克服してきているケースが多い。従って狭いフェアウエイも、こういう裏技で克服してきているのだろう。
安本も、その一人であった。「でも、いまの若い(笑)選手のほうが、それを最初からマスターして、難なく攻めてきますからね。僕は、緊張するという自分が、試合で戦っているという状況が、嬉しいんです。いい刺激ですから。明日も、頑張ります」と語った。時代が変われば、攻略法も大きく変わるということなのだろう。
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