最終ホールの最後の4パット目を沈めた武藤俊憲の表情が、もの悲しく映っていた。精一杯戦ったあとの清々しさよりも、勝てなかった悔しさが、その表情に滲みでていた。それだけ壮絶な接戦であり、熱戦だった。振り返れば、何度も、追いつき追い抜くチャンスがあった。武藤と藤田の最終組が12番ホールにやってきたとき、11アンダーパーで金庚泰と並んでいたが、ちょうどそのとき13番ホールで金がバーディを取り12アンダーパーと1打リードされた。武藤は、グリーン左バンカーから左上がりのバンカーショットをピン5メートルに寄せていた。それを沈めればバーディで、再び金と並ぶ…。
その距離のパッティングをカップの左にわずかに外
して、1ストロークの差が縮まらなかった。
その金も、14番ホールで2.5メートルのバーディパットを外して、武藤を1打差以上突き放すことができていなかった。チャンスは、いくらでもあった、と後悔するのもおかしくない。13番ホールで、ようやく武藤が、ピン右から6メートルのパットを沈めてバーディとし、12アンダーパーと並ぶ。
金が、15番ホールで、この日ノーボギーで7つめのバーディパットを決めたとき、おそらく金には、優勝の手応えの予感があったのかも知れない。
武藤は、振り返る。「スコアカードに、あれだけ2(パット)が並ぶとね…。全部入りそうで、入らない。いま思っても、なんとかならかったのかな、と悔しい。今日は、僕の日じゃなかったと思うしかないです。入りそうなパットが、いっぱいあったのに…」
その言葉の響きには、せつないほど悔しさと無念さが込められていた。
「やっぱり、金庚泰か、ってう感じですね。今日だけで7アンダーパーですもの…。でも、僕も(同伴競技者の)藤田さんには感謝しています。僕のプレーを引っ張ってくれたと思っています。本当に凄い先輩だなと、改めて思いました。僕は、全部出し切った感じです。もう、なにも出ません」
武藤は、全部出し切ったかも知れないけれど、その出し切ったスペースに、数多くの何かを収納できたのだと思う。
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