4打差をつけて迎えた菅沼菜々(埼玉栄高校3年)の最終ラウンド。前夜は、緊張のあまり「1時間おきぐらいに目が覚めてしまってよく寝られませんでした」とはいうものの、前半は落ち着いたゴルフを展開した。2番、6番とバーディを先行させて通算8アンダーパー。順調な流れに乗っていた。8番で10メートルの距離を残したパーパットも信頼しているパターで沈めた。
菅沼の中に異変が起きたのは9番からだった。ドライバーショットが突然曲がりだしたのだ。引っかかって曲がる“危険球”が出始めたのである。ここから、なんと4連続ボギーを叩くことになる。
なおもピンチは続いた。13番(パー5)ではティーショットが左バン
カーに飛び込み、2打目は9番アイアンでアゴに当たらないように出すだけ。第3打もグリーンに乗らず、2メートルのパーパットを残してしまった。はずせば5連続ボギーになってしまう。このパットが決まって「ようやくちょっと落ち着けました」。
9番をボギーにしたことで、いやな思い出が蘇ってしまった。高校1年生で出場した2015年大会でのできごとだ。最終ラウンド8番まで通算6アンダーパーとトップ3をうかがえる好位置につけていたのだが、9番のミスをきっかけに、このホールから4ボギーと崩れてずるずると後退してしまった(最終順位は通算2アンダーパーで9位タイ)。コースも同じ西コース。「また、あの時のゴルフを繰り返してしまうのだろうか…」と不安に襲われたという。13番で際どいパーパットを沈め、ボギーの連鎖を断ち切れたことで、ひと息つけた格好だ。しかも、同組の長野未祈に12番で並ばれてしまっていた。
両者並んで迎えた最終18番(パー4)。菅沼のティーショットが、今度はプッシュアウトとなって右ラフに。2打目はバンカーにつかまった。湿った砂で目玉状態になっていた。ここから絶妙のショットを放った。低く飛び出したボールはピン横50センチほどに止まった。
ラフからの第3打だった長野のアプローチショットは、ピンをかなりオーバーしての3オンだった。そして、このパーパットがカップに消えることはなかった。ボギー。残すは菅沼の短いウィニングパットだ。「アドレスしたら手が震えていました。でも、まっすぐの上りだったから、しっかり打てばボールはカップに飛び込んでいってくれる。やさしいラインだったので救われました」
このパットを決めて、辛くも1打差の逃げ切り優勝となった。
「優勝なんて信じられないです。ビックリです。凄いな、自分って感じです。高校2年の冬に無気力症候群に陥り、半年間もクラブを握れなかったことも、いまとなっては「(ゴルフを)再開できて本当によかったなあ…と、振り返ることができるようになっています。
前夜、埼玉栄高の橋本賢一監督はじめ、同校卒業生でゴルフ部OGの渡邉彩香、辻梨恵両プロからメールが届いていた。内容は、似ていた。「緊張するのは当たり前。その中でゴルフができるのは、幸せなこと。緊張した中でのゴルフが、この先、どれほど大きな財産になるか。思い切り楽しめ。やれ!」
終盤の長野との競り合いで、このハッパが支えになったという。コーチ役を果たしてきた父親に欲しいものがあるとねだったのは自分の部屋用のテレビだった。「日本ジュニアで頑張ったらな」と、父親は言ってくれたという。きっと、このテレビが“副賞”となって、届けられるのだろう。
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