藤田寛之は「くじけそうな自分」と「嬉しい自分」の間で揺れ動いていた。通算7アンダーパーでスタートした第3ラウンド。藤田は、思うようにスコアを伸ばせない。「いや、傍から見ているより、かなり頑張っているんですよ。自分の中では、現時点では(ゴルフの仕上がりは)まだまだで、まずは予選通過、そしてできればシード権という目標の階段からいえば、ようやく2段。そして、なんとか3日目を終えてこの位置にいられるということを考えると、2〜3段目だと思うんです。優勝?それは5段上でしょう。そんな状態の自分を考えれば、よく頑張っているなと思います」。
4番、バーディのあと、6、7番とボギーを叩き、そこでくじけそうにな
るとすかさず8番でバーディが来た。10番で再びバーディを奪い、ようやく1打縮めて通算8アンダーパー。まだ上位に喰らいついていた。13番でボギー。しかし、14、15番で連続バーディが出た。
「一歩引いて(達観して自分をみると)やるじゃない49歳。そういう奴がいてもいいじゃないって思う自分もいたんですよ。速報ボードを見て、左側の上の方に自分の名前があって、嬉しくなっちゃったのも確かです。でも、くじけそうなところが常にありました。16、18番のボギーは、何をやっているんだ、藤田寛之って叱咤しました」。
ショットに一抹以上の不安を抱えながらのプレー。それでも「ゲームの中では、なるようにしかなりませんからね。いい方向に転がるか悪い方向に転がるかなんて、実は計算できないんですよ。特に今の自分の状態では、そういう(ゲームの中での)押し引きができる状態じゃないんですから」と語った。
「反省するけど後悔しない、引きずらないという感覚」が、プロゴルファー藤田寛之には、強くある。
「だって、ミスしても時間を戻せないでしょう。打った瞬間から戻せない。10を叩いても、消せない。だから、タラレバとか、食事時間でもゴルフを振り返るとか嫌いなんです。もちろん技術的に不安が残っても、悔いることはない。反省点だけわければいいわけですからね」と言っている。その反省点を練習で補うのだ。
「何をやっているんだ、藤田寛之」と叱咤激励し、そして「この位置で戦えているという自分をみながらニヤけている自分」その振り子に揺れ動きながら最終ラウンドを迎える。優勝争いは、通算11アンダーパーで首位の稲盛祐貴。通算8アンダーパーの竹安俊也。そして通算7アンダーパー、同スコアの鍋谷太一。いずれも優勝経験のない選手たちである。
「初優勝争いを経験する若者とエネルギー切れの自分と……(そのプレッシャーは)いい勝負かも知れないですね」と語った。「やるじゃない49歳、藤田寛之」と自分を褒めているシーンを見てみたい。
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