開口一番「出ましたね」と語ったのは、藤田寛之だった。「前半はなんとか持ちこたえました。不安ながらも、短いホールでなんとかチャンスをつくれたのですが、ロングショットでボロがでましたね」という。不安というのは、今週だけでなく、ずっと引きずっているショットのことだ。持ち味のフェードボールがうまくコントロールできずに左に引っ掛けたり、まっすぐ左だったりという不揃いの球筋を、なんとか師匠の芹澤信雄の特訓で修正して望んだ本選手権。けれども、最終ラウンド、優勝争いの終盤で、その繕いが解けてしまったのである。
「11番はうまくクリアしましたが、13番でミスが出て、14番はツキがなかったですね。手前よりもピン
まで行ってしまおうと思いましたが、スタンスがとれなくて、でもバーディを獲らないといけないので、寄せにいったらああいう結果だったので、しょうがないかなと思いました。あそこで終わりましたね」と振り返る。
前半を2アンダーパーとして通算9アンダーパー。首位を走る稲森に急接近していた。ところが、藤田が解説するように、13、14、15番と3連続ボギーとしてしまったのである。
「万全なゴルファーは、いないけれど、思い通りにいかないジレンマが、非常にありますが、ここまで出来たのは、進歩、回復があったと思います。急には良くならないと思いますので、少しずつ良くなっていけばいいなと思います。本当に、芹澤さんに教わりながら、自分らしい動きが少しずつ取り戻しつつあるのかなと思います。スウィングや時代の変化があるので、いい意味で自分も変化しないといけないっていう部分で、いろいろな取組をしています」とまるで自分自身に言い聞かせるような表情で語った。
「結局、芹澤さんから言われるのは「そのままの自分でいいんだよ」ってことなので、そのままの自分を、もう一回取り戻せるかどうかなのでしょうね」。
最終ホール、ホールアウトしたときの藤田寛之の表情は、なんともいいようのない苦渋と切なさと、少しの満足感が入り混じったものだった。49歳、藤田寛之が、そのままの自分で、また活躍する日は近い。
|