日本オープンが霞ヶ関で開催されるのは4回目。前回は1995年、伊沢利光が東コースの18番で右林のすぐそばまでティーショットを曲げ、大ピンチを迎えたかにみえたが、伊沢は7アイアンで乾坤一擲のショットをし見事グリーンをとらえ優勝を飾った。セカンドショットは深いラフ、ピンまで200ヤードを悠に越え、とても乗せるのは無理、と思われた。しかも伊沢のリードは細川和彦にわずか1ストローク。精神的にも追い込まれ、ひるんでも仕方ない状況だった。が、逆境に伊沢は冷静だった。「フライヤーするので強く高く飛ぶ」、と手にしたのはなんと、7アイアン!。高々と振りぬくとグリーンをとらえた。身長170センチ。決して大きくない、どちらかといえば小兵選手が200ヤードを7アイアン。追い込まれたものの土壇場における強さ、目前の勝利に燃えたぎる闘争心、そしてギャンブルの中の冷静な判断など、ぎっしりと詰まった日本オープンの面白さ。伊沢の優勝が自身のキャリア初優勝ということもあって、いまも語り継がれる忘れられない大会となった。
今大会、何が起ころうとしているのだろうか。日本ツアーは賞金王片山晋呉が今大会に2連覇がかかって中心。しかし、片山はなにかおかしい。シーズン初めの中日クラウンズで2位川原希に2打差、3位の川岸良兼らに7打差をつけいよいよ独走か、と期待を抱かせたが、それ以後がよくない。特に遠征した全英オープンで予選ラウンドをタイガー・ウッズと回ったあたりから「片山」でなくなった。タイガーのパワーゴルフに「想像を超えた存在」といい、自信を喪失したかの言動がしばしば見える。
以後、自らもパワー追求に走り、バーディーも出るがボギーも多く、ショートウッドを駆使、グリーン上、変幻自在のパッティングスタイルで見せていた磐石の強さ、粘りが陰を潜めたのは気がかりだ。
代わって台頭したのが谷原秀人。全英で5位と健闘し帰国初戦となったサン・クロレラクラシックで今季2勝目、賞金トップに躍り出た。この大会、小樽カントリークラブは全長7509ヤード、パー72と日本ツアー史上最長のヤーデージ。グリーンだけでなくフェアウエー、ラフなど全面洋芝の欧米仕様、選手たちの気持ちの入れ方も強く、最終ラウンド、最終ホールで、もし谷原が最後、3メートルのパーパットをはずしていたら6人がプレーオフ突入という大激戦だった。
こうみてくると全英オープンが日本ツアーに及ぼす目に見えない影響があり、日本オープンもそんな見えない糸にあやつられて何が起こるかわからない、といった雰囲気になる。
日本ツアーは今、はっきり言って膠着状態だ。日本プロに近藤智弘が勝ち米ツアーから帰った横尾要が三菱ダイヤモンドカップを制した。マンシングウェアオープンの武藤俊憲、マンダムルシードよみうりの増田伸洋、USB日本ゴルフツアー選手権宍戸の橋竜彦と新しい息吹を感じる優勝者が出てきたのは救いだが、なんといってもツアーに元気がない。ツアーは確かに例年のようにシーズン末に向け盛り上がりを見せるのだろうが、これまでのところ男子ツアーは内容がいかにも大味な気がする。
特に試合展開。15戦を終わってプレーオフが1回(日本プロ)1打差優勝がわずか2(サンクロレラ、マンダムよみうり)。後は2打差か、それ以上の大差。人気面で女子と比較される男子だが、女子ツアーは23戦を終わってプレーオフ5、1打差決着が6回もある。 男子の賞金王は2年連続片山が獲得しているが、04年、05年と年間2勝しかしていない。あえて“2勝しか”というのは、そこにつけこめないほかの選手の不甲斐なさを指摘したいからである。片山が待っていてくれているというのに、誰も抜けない、抜こうとしない。奮起がほしい。
日本オープン。「誰が優勝するのだろうか」― 大変、迷っているとどこからか、今野康晴、川岸良兼、深堀圭一郎、手嶋多一、そしてアマ池田勇太を呼ぶ声が聞こえた。
なぜ彼らか?今回開催の霞ヶ関とのある符号がある。霞、といえばジュニア、学生ゴルフのメッカである。日本ではじめて36ホールを持ったコースは今回開催の西コースと東を持つ。広さは多くのゴルファーが親しむことにつながった。日本オープン3回のほか日本女子オープン1、日本アマ2、日本女子アマ3、日本学生5(うち女子1)を開催した。そして日本ジュニアは1971年から真夏の恒例行事。中でもジュニア、学生出身者には霞はかつてなじみのホームコースである。ゴルフは長い戦い。成長した選手たちはある意味、「霞をよく知る選手たち」。成長した姿の見せ所である。
霞ヶ関西コース。井上誠一設計。井上氏設計のコースは今年の日本女子オープンの大阪・茨木西、日本シニアオープンの三重・桑名とあわせ今季、メジャー3大会が同一設計家による独占開催の快挙でもある。3大会が終わって改めてコースについての話題再燃。そんな余韻も楽しめる。 |