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「気力だけ。気力だけで戦っている」……と言う中嶋常幸が、後半、10番ホールから7ホール連続のバーディというゴルフを見せた。10番、3メートル。11番、5メートル。12番、1メートル。13番、奧から10メートル。14番、1.5メートル。15番、3.5メートル。
これだけ見れば、レギュラーツアーで絶好調の時の中嶋選手を彷彿とさせる。いや、アイアンショットの切れ、パッティングのタッチが素晴らしいと思う。
けれども、中嶋は、満身創痍。腰痛だけでなく「体のあちこちが酷い」という状態の選手なのである。
「ともかく、スコアのこととか、成績とか、次のホールでどうしようとか、と考えることもなく、(ボールが)どこに行っても、何番ホールでも、精いっぱいやるだけ」
中嶋は、間違いなく集中できていた。
「そう。集中しているからクールな状態。クールっていうと日本語だと冷たさを感じるから、そう、穏やかな集中かな」と言った。
中嶋を支える「気力」が、途中棄権という選択肢を捨てた。
「ゴルフは、すべて自分自身。だから、自分で線を引くわけです。どういう風に線を引くかというのは、その選手の価値判断になる。僕は、自分で限界だという線を引きたくない。フェアウェイを歩いていて、次の一歩の足を踏み出せなければ、ほかの選手にも迷惑をかけるから辞めざるを得ないけれど…。まだ、歩けるし、振れる。こうやってプレーできていることだけでも感謝しなければいけないわけでしょう」
第1ラウンド、中嶋はスタートホールのティショットで「100ヤードしか飛ばなかった」といった。
「寂しかったね。だって、自分で自分のスウィングができなかったんだもの。でも、投げやりなプレーだけは、したくないと。したら、みんなに応えられない」
その「気力」を支えているのは、周囲のスタッフやファンだという。スタッフは、腰痛など体が壊れている中嶋に、少しでもいいプレーをして貰おうと必死のケアを施している。
「みんなが頑張って僕を支えてくれている。その僕が、萎えてしまえば、みんなに済まないでしょう」
中嶋常幸の「気力」が、生み出した7連続バーディ。そのときの中嶋の表情は、ゾーンに入るという言葉がぴったりだった。
「今日のホールの位置で、あれほど連続してバーディが獲れるなんて…。何かに憑かれたとしか考えられない」と、ある競技委員が言った。中嶋にせよ、渡辺司にせよ、戦い抜くという気力が、そうさせたのかも知れない。
「最後は、自分自身の戦いだから…」と言った中嶋常幸の気力には、鬼気迫るものがあった。
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