尾崎直道は、このところ腰痛に苦しんできた。今大会も前日の練習ラウンドをキャンセルし、福岡市内のトレーナーのもとに駆け込んでいた。実は、そこで衝撃のアドバイスを受けたのだが、その話は、後述するとして、第1ラウンドのプレーを先に記述しておきたい。
「練習も十分にできなかったし、体調のこともあったから、どうなることやら…と不安だらけでスタートした。ドライバーショットは、軽くスウィング。アイアンショットも、最初はフルスウィングを避けてコントロール最優先だったけど、グリーンコンディションが素晴らしく、しっかり止まってくれるのを確認出来てからは、少しターゲットを狭めて狙っていった。うまくグリーンをつ
かまえられたし、グリーン上のパフォーマンスもよかったね。僕のゴルフの印象って、みなさん歯を食いしばってガツガツいくイメージでしょ?それが、今回は違うんです。ずっと静かなゴルフで、心に波立ちがない、というか、それを続けていれば、なるようになるという心境のプレーというか」。
同じ組でラウンドした羽川豊が、呆れ顔で言っていた。「とにかく、パッティングが凄かった。どこからでも入れるというか、入ってしまうような雰囲気があった。以前は、覇気を漲らせるようなところがあったけど、今日は、入れ込み過ぎることもなく、“入ってくれればいいな”という感じで、楽なストロークだった。そのうち、こちらとしては“どうせ、また入るんだろうな”という気分にさせられて、モチベーションの上がらなさと言ったらなかった。迫力あるプレーというよりボディーブローがじわじわ効いてくる感じで周りを意気消沈させるようなゴルフだったね」。
ちなみに、7バーディ(ノーボギー)の尾崎に対して、羽川は3バーディ・1ボギー・2ダブルボギーの2オーバーパー、74でのホールアウト。羽川を呆れさせた尾崎の1番からの9ホールは10パットだった。
さて、腰痛対策で受けたトレーナーからの指摘とアドバイスの話だ。「自分は、ここ3年ほど、電動の乗馬のようなマシーンを自宅に置いて、腰をグラグラ動かしていたんだ。うん、腰を強くしようと思ってね。そしたら、トレーナーは“そんなことやっちゃダメだ”って言うんだよ。骨がこすれてしまうから腰痛には逆効果だって。それより、腰は動かさずに、臀部の筋肉や大腿部、その裏側を鍛えて、腰に負担がかからないようにするのが大切だからって、そうした部分を動かしてくれた。それで、このゴルフができたということは、この3年ほど、自分は何をやってきたのかわからないよね」。
インタビューを終え、クラブハウス2階のレストランへの階段。「あれ、(腰が)グラグラしないや。なんか楽に上がれるなあ…」と独り言。そして「でも、これで歯を食いしばるようなゴルフに戻しちゃいけないんだよな。静かなゴルフだよ、静かに、静かに」
新生・尾崎直道で押し通すつもりでいるようだ。
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