畑岡奈紗は、スタート前に「苦しいラウンドになるな」と想定していた。それは「最終ラウンドなので、きっと厳しいホールロケーションになるだろうし、風もあるし、悪い方にいくとパーを拾うのが難しいな」と、手こずる1日を想定していた。案の定、3番(パー3)でボギー。さらに4番(パー4)でもボギー。さすがに2連続ボギーとしたときは「想定内だけど、まさか2連続ボギーとは……」と思ったという。ズルズルと悪い流れに行ってしまいそうな濁流をくい止められたのは、続く5番(パー4)でのバーディだった。残り147ヤード。つま先あがりのライから7番アイアンでのバーディチャンスを見事に沈めた。
「これが、大きかったです
ね」と、自ら清らかな流れに変えて、8番(パー3)でも2メートルにつけてバーディ。9番(パー4)でも1メートルにつけてバーディを奪った。通算15アンダーパーでスタートして、4ホールが過ぎて、通算13アンダーパーまで落とした。それを前半9ホールで、1つ縮めて通算16アンダーパーにまとめあげた。「ドライバーショットが、一昨日、昨日よりも調子がよくなくて、まだバラバラになところがあったんです。ミスしても笑顔を忘れずにと思ってプレーしていたんですけど……。でも、キャディさん(グレッグ・ジョンストン)が、タイミングよく話かけてくれて切り替えができたと思います」と言った。
ゴルフゲームは、ショットを絶え間なく打ち続けるゲームではなく、1打を打ち終えて、歩く。そして、また打つというスウィングの運動が断続的に続く。その間に、考えすぎてしまったり、のめり込みすぎたり、逆に、集中が切れたりする。メンタル要素が大きい。「雑談が多いですね。今日は、キャディさんが、結婚20周年なんだけど、妻へのプレゼントは、何がいいと思う?って、聞かれちゃったんですけど、私、結婚もしていないし、わかりません(笑)って答えました」と内輪話を語った。
10番(パー4)でボギーを叩くも、11番(パー4)ですぐに取り返す。「いちばん、緊張していた時間帯は、14、15番ですね。リーダーズボードを見ても接戦でしたし……」確かに、畑岡が通算16アンダーパーとするも、岡山絵里が、大里桃子が、そしてユ ソヨンが食らいついている。「ですから、16番(パー3)でのバーディは、大きかったです」という。167ヤード。7番アイアンで、2メートル弱につけてのバーディ。これが勝敗を確かにした1打だったと思う。
最終ホール。18番(パー5)。畑岡は、6メートルのバーディパットを残していた。「2パットでもいいと思ったんです。でも、やっぱり1打でも欲張りたいですよね」と言った。そのウィニングパットは、畑岡に対するご褒美のように思えた。「やっと終わった。ホッとしました」と本音を吐いた。
この日本女子オープン3勝以上の優勝者は、史上3人目(樋口久子、涂阿玉)。そして同一年の日本女子プロ選手権と日本女子オープン優勝も42年ぶりだった。快挙ですね。という質問に、あまり強い反応がなかった。それよりも、昨年大会でユ ソヨンに破れたことの悔しさ。そして、今年、世界のメジャー大会で、渋野日向子が優勝したことの悔しさのほうが強かった。「メジャーでは、気持ちが入りすぎて、失敗。予選落ちの悔しさが、残りました。そして同世代の日向子ちゃんが、勝って、それは嬉しかったですけど、その後に、悔しさもありました」と、正直なコメントだった。悔しさが、バネにる。畑岡が、まさにそういうタイプの選手だろう。
この大会の2週間前。畑岡は、練習ラウンドに訪れている。2日間、入念な準備をしていたのだ。見えない努力と準備は、畑岡らしいと思った。いまの夢は「来年の東京オリンピックで金メダル!」と、きっぱりと答えた。期待したい。
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