最終ラウンドの最終18番ホール。6メートルほどのバーディパットを沈めたC・キムは小さく、数度のガッツポーズを見せた。この時点で優勝が決まったわけではない。スタート前に目指していたゴルフを完結できたこと。スライスしてからカップ近くになってフックするという難しいラインを読み切って決めたこと。そこからくるガッツポーズであった。
サスペンデッドとなった第3ラウンドのプレーが終わった時、キムは通算5オーバーパーの17位タイ。首位の塩見好輝とは8打差があった。そこで、最終ラウンドは「とにかくアグレッシブなゴルフを展開して、できるだけバーディを奪い、トップ3入りを狙う」と、それを自分のテーマにしていた
。この段階では「優勝までは考えていなかった」という。
188センチで100キロを超える巨漢のキム、最大の武器である飛距離にモノを言わせて、攻めに攻めた。「大きく(スコアを)伸ばすためには、ボギーを恐れないゴルフが必要だ」と攻撃を優先させた。ホールアウトしたときに自分のスコアカードを見て「8バーディ(4ボギー)も奪っていたんだ」と、結果を知った。後続の堀川未来夢、最終組の塩見好輝のスコアは、まだ確認できていなかった。両選手の自滅による後退を知るのは、まだ少し先のことになる。とりあえず、両選手と並んだことまでスコアボードで確認すると、プレーオフに備えて10番ホールのティーイングエリアへと足を運んだ。得意のドライバーを打ち込んでいるときに、8打差からの大逆転優勝が決まったことを知らされた。その瞬間、巨漢の目には涙が浮かび、ポロポロと零れ落ちた。
「まさか、こんな結果が待っているなんて考えてもいなかったし、信じられなかった。優勝を知らされるまでは、自分のゴルフをやり抜けたことへの満足感と、達成感が押し寄せてきていた。そこに“プレーオフかもしれない”という情報が飛び込んできて、突然ものすごくナーバスになる自分がいた。大袈裟ではないし、ちょっと恥ずかしくもあるけど、手が震えてきたんだ。本当に緊張していた。優勝が決まったことを知らされて、嬉しさもこみ上げてきた。自分にとっては、日本オープンは最大の試合。そこで勝つことは栄誉だし、光栄なこと。誇り高い気持ちにもなった。いろんな感情が押し寄せてきて…」。最後は、涙の理由も明かしてくれた。QTトップ通過で日本ツアーを主戦場にした。いきなり3勝して賞金ランキングでも3位になったのが2年前。昨年は、日本ツアーでキムの姿を見ることがなかった。実は、3月のWGCメキシコ選手権に出場したのはいいが、第1ラウンドの朝に手首を痛めて、そのまま棄権していた。さらに腰痛にも襲われるようになり、韓国で治療に専念する日々となっていた。シーズン3勝したことで3年間のシードを得ていた。1年間、じっくりと腰痛治療に専念して、今シーズンから再び日本ツアーの舞台に立った。苦しい時期のことも頭をよぎっていたのかもしれない。
塩見、堀川の終盤の自滅によって転がり込んできた優勝かと言われるかもしれない。試合の流れ、展開をみれば、そういうことになるかもしれない。だが、8バーディを奪い、最終ラウンドのベストスコアを叩き出したキムには、幸運もあっただろうが、自分でつかみとった優勝という思いも残ったのではあるまいか。この優勝で、賞金ランキングでも一気にトップに浮上した。
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