第3ラウンドに驚異的なフェアウェイキープ率を記録したのが伊藤正己だった。なにしろ、フェアウェイを外したのは、1番の1ホールだけ。「コース攻略の最大のキーになるのは、いかにフェアウェイをとらえるかだ」と各選手が口をそろえる。「それができれば、難しいホールロケーションであっても、なんとかスコアを作れる」ともいう。
伊藤は、第3ラウンドに、そのゴルフを展開した。1番1.5メートル、2番2.5メートルを決めて連続バーディでスタートすると、5番、8番でも、それぞれ2メートル前後につけて前半で4バーディを奪った。ボギーになるようなピンチもなく、スコアを着実に伸ばした。
10番でも2メートルのチャン
スを迎えた。ここで、伊藤の頭に浮かんだのは、シニアの第2戦だったノジマチャンピオンカップ箱根シニアの第1ラウンドのことだった。この試合、63歳の伊藤は11バーディ・1ボギーと大爆発し、62というシニアツアーの最少スコアでエージシュートを達成している(最終的には6位タイ)。「これが決まったら、またエージシュートかな…なんて考えてしまったんですよね。箱根のときも、前半は32で、ちょうど同じ流れだったもので…。ダメですね。はずれてしまいました。僕みたいな三流プロが、だいそれたことを考えちゃいけなかったですね」などと言いながら、好プレーは、まだ続いた。11番(パー5)は2オン2パットの危なげないバーディだったし、難しい15番(パー4)もフェアウェイからの第2打を3.5メートルにつけた。これを決めて、この日は6アンダーパーのペースだったが、17番で1.55メートルのパーパットをはずして悔やんだ。
「あのポロリとはずしたのが、ほんの数年前の僕なんです」
実はシニア入り後、伊藤は4年ほどパッティングのイップスに苦しんだ。「本当に5~60センチのパットがホールにさわりもしない状態になってしまって」。いろいろ試しても、症状は改善されなかった。そのことがあるから自身を「三流プロ」と自虐的に称したのだった。「あれこれやってもダメなんだから、もう、どうにでもなれっていう気持ちになって、はずれることを考えずに打ち始めた」ら、不思議なことにイップスから、ほとんど解放されていたそうだ。そうなってみると、ゴルフに対する考え方にも変化があったという。
「ゴルフができる幸せ、プレーできる喜び。本当にゴルフというゲームがあってくれてありがたい。感謝、感謝ですよ。日本シニアオープンなんて大会に出られるだけで幸せだし、ギャラリーに見てもらえてうれしいし、全国中継のテレビにも映してもらえる。夢見たいです」。
第3ラウンドが終わってみれば4位タイ。最終ラウンドはさらに注目度が高くなるだろう。そこで、どんなプレーを展開しようというのか。「優勝争いなんて、おこがましいです。コース内にある速報板から、自分の名前が消えないでくれと願いながらプレーさせていただきます」。第3ラウンドのドライバーショットの精度が保たれれば、名前が消えることなど考えられない。
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