前半の2バーディで通算7アンダーパーまでスコアを伸ばしていた河本力だったが、後半になって、いくつかのことを失ってしまった。ひとつは、せっかく伸ばしたスコアだ。1バーディ・2ボギー・1ダブルボギーで前半から3ストロークのロスとなった。通算4アンダーパー。首位でスタートして2位タイに後退したのだった。
ふたつ目は、スタート前に目標にした「第3ラウンドは2アンダーパーでいこう」という自分の設計を忘れたことである。「スタート前にスコアボードを見たら、みんな伸びていなかったので、大会前に立てていた1日3アンダーパーという目標を2アンダーパーにしていたんです。ところが、9番で8メートルぐらいあるパットが
入ってくれて2アンダーパーになったことで、“これなら、やっぱり3アンダーパーでいけそうだな…って、頭の中でスイッチが切り替わってしまったんですよね。で、もっと伸ばそうとして逆に流れを変えてしまったように思います。反省です」
そして、もうひとつ失っていたものがあった。これが、後半の乱れを招くことになったのだが、失ったものとは感覚だった。2番アイアンで放った10番ホールのティーショットが、右にすっぽ抜けて深いラフに飛び込んだ。2打地点に向かいながら、ミスの原因を確認しようとした。「そのとき、“あれ?”って思ったんです。いつもなら、ミスの原因がわかるのですが、10番のミスは、何故あんなショットになったのか、わかりませんでした。どうなっていたんだろう…。わからなければ、修正もききません。まずいことになったなって、ちょっと焦りました」
こういうことかな…と推測して、修正しようとしても、今度は逆に強いフックボールになったり、左に飛び出したり…。消えてしまった感覚は戻ることなく、残りのホールを消化する。これが、3オーバーパーを叩いた後半のゴルフであった。
緊張からくる混乱というわけではなかった。緊張について、河本は面白いことをいっていた。「練習以上の力が出せるのは、緊張のおかげだと思います。だから自分は、緊張を楽しめるんです」
前日、Lineで姉の河本結からメッセージが届いた。「リズムよく打てればいい」「楽しんでくれ」「がんばって」。河本は「うん、そうだね」と短く送り返した。わかっているさ。そう言いたかったのであろう。
1打差で追う最終ラウンド。「これからやるか、あしたのスタート前にやるかわからないですけど、ミスの理由だけは、しっかりと探り、ミスショットの修正ができるようにしておきます」それが、また緊張感を楽しめるようになるための最終準備ということになるのだろう。果たして、最終ラウンドでは、今日の後半に失った感覚は戻っているのだろうか。
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