ホールアウトして、メディアのインタビューにやってきた稲森祐貴。記者からバーディ・ボギーのホールの説明を訊かれると「あれ?…どうだっけ?…え?」と、記憶が抜けているような状態だった。ホールアウト直後。それも目一杯集中力を使い、戦闘モードのままだと、よくこういうふうに、記憶が一瞬飛ぶことがある。まさに、この日の稲森が、そうだった。
ようやく記憶の糸を辿れたのは、記者から手渡されたホールレイアウト図を見ながらだった。
第3ラウンド。稲森のスコアが動いたのは5番(パー4)だった。そこでボギー。が、次の6番(パー3)ですかさずバーディをもぎ取る。「思い出した。170ヤードを6番アイアンで1.5メ
ートルに寄せてのバーディです」と語ったけれど、どうやら5番のボギーは、記憶にないらしい。
スタート前に、雨、気温11.8度。この状態で稲森は「気温も低いし、雨だし、飛ばないから、通常よりも1番手大きめのクラブで攻めよう。距離に対して目一杯のクラブを持つよりは、1番手大きめにして、いざというときには抑えて打つという戦略でした」例えば、18番(パー5)での第3打。残り122ヤード。「(天気の良い)昨日なら50度のウェッジですが、今日はピッチングウェッジで抑えて打って、1メートルほど。今日のベタピンでしたね」と言った。12番でボギー。その後、13番では約3メートル、15番も4メートルを沈めてバーディ。通算4アンダーパーで2位タイとなった。
「奇跡的に、というか、運良くというか。12番(495ヤード・パー4)の第2打を3番ウッドで打ったんです。そのショットのあたりが良くなくて池に入って、水切りみたいなかんじで助かったんですよ。欲を言えばパーセーブしたかったけれど、それを考えれば、さらに1打は費やしてしまうでしょう。ほんと、まさか池があるなんて眼中になかったけれど、そこに行っちゃって助かったんです。運のいいボギーでした」と語った。
稲森のティーショットは、いつもフェアウェイという定評がある。この日も、フェアウェイを外したのは14番だけだった。けれども、距離がたっぷりとあり、難しいこのコースでは、いくらティーショットが良くてもそれだけではスコアに繋がらない。2年前の本大会で優勝したとき以上に、アイアンショットの精度が高くなっていると思う。
「今日は、よくてイーブンパー、悪くて1オーバーパーという気持ちでいたんです。思っていなかったスコアになりましたね(笑)。でも、こういう悪条件の中で、自分の(ショット、リズムなどの)調子を狂わせたくなかった。ともかく無駄な1打を打ちたくなかったんです。順位とか関係なく、ともかくコースを相手にプレーしようと。今日は、それができました。明日は、順位を気にすることもあるけれど、とりあえずは、コース攻略しか考えないでプレーします。なんでもいいから今季は1勝したいと思っていたんです。でも、やっぱりメジャーに勝ちたいなぁ」稲森の目標は、優勝と決まった。
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