勝ちたい、勝ちたいと、勝みなみは、お腹の底から振り絞っていた。その思いが強ければ強いほど、逆にプレッシャーとなって思うように体が動いてくれない。雑念が、体中に巡ってしまうことが多い。最終日、第4ラウンドの1番スタートで、名前をアナウンスされるとコースに向かった帽子のツバに指をあてて軽く会釈した。さあ、行くわよ、という気概があった。
その第1打は、ボールが右に飛んだ。フェアウエイから少し外れたラフ。第2打も、グリーン右のラフ。いきなりピンチである。先行き不透明な出だし。雑念と格闘している。ラフからのアプローチを見事に3メートル教に寄せた。「これでパーが獲れなければ、流れがつかめないなって思
いながらパッティングの準備をしたんです。すると、構えたときに、ふと、これ入るなって感じだったんです。」ナイスパーだった。「最初から安全に行こうと思ってたんですけど、まさか苦しい場面になるとは……。でも、自信を持ってやりました」と言った。ホッとする間もなく、続く2番でも、またもやピンチ。第1打は右のカート道路に。無罰での救済を受けたカート道路のすぐ脇にはちょうど狙い目の左右に門構えの松の木がある。そこからグリーン手前のカラーから外れた右ラフ。ピン手前4メートルに運んだ。またもやのピンチに、勝は別のイメージが湧いていた。「でも、決めたらいい流れがくるかも知れない」と。それを見事に決めた。そこで雑念がすべて払拭されたのだろう。
3番、パー5。「相手(を意識する)より、自分がいかにいいゴルフができるか。それしか考えませんでした。いつもなら狙うところを3打目勝負で行こうねってキャディさんと話しながら、マネージメント中心に組み立てました」と語った。その後は、なにもかもの流れが、勝みなみに向いていた。7番では、90ヤードから70センチに寄せてのバーディ。10番では、残り163ヤードを7番アイアンで20センチに寄せてバーディ。13、14番でも連続バーディを奪って通算15アンダーと独走態勢となった。
勝みなみは、JGA(日本ゴルフ協会)のナショナルチームのメンバーだった。そして就任して間もないヘッドコーチのガレス・ジョーンズさんに指導を受けた選手でもある。その後、女子選手だけでいえば、畑岡奈紗、稲見萌音、西村優奈、古江彩佳、安田祐香と優秀なプロ転向した選手の先駆けでもある。ジョーンズ・コーチが重視しているのは、ゲームマネージメントである。ショット力だけでなく、マネージメント力がどこまで育つか。いわば、ゴルフゲームには、ふたつの山があると言われ、ともすればスイングの山を重視しがちだが、ゲームの山の重要性を説いて、指導していた。したがって、100ヤード以内のショートゲームに磨きをかけなさい、とも力説しているのである。
男女合わせて、ジョーンズ・コーチの教え子は、46名いる。渋野日向子が「勝っちゃんは、いわば黄金世代を切り開いた人」と表現したけれど、もうひとつジョーンズ・コーチの薫陶を受けた先駆けだったのだ。特に、全長距離の長いコースでは、マネージメント力が問われる。それをしっかりとやり遂げたプレーだったと思う。
「途中で、泣きそうになっちゃったんですよ。勝ちたい、勝ちたいでやってきて、ナイスプレーができていて、もし勝ったらどうなるんだろうとか、自分が成長したんだなとか、いろいろな思いが溢れてきちゃって。そのイメージのまま18番ホールにやってきて、でも、最後が、3パットのボギーだったから、ちょっと、自分がイメージしていた優勝シーンとは違って(笑い)。だからワーッという表現が出しきれなかったんです。でも、心のなかでは、すごく嬉しかったんですよ」と、説明してくれた。
日本ジュニア、日本女子アマ、日本女子オープンのローアマ。そして今回の日本女子オープン優勝の四冠を獲得した(諸見里しのぶ、宮里藍に次ぐ3人目)。
この優勝によって、自分の成長をしっかりと感じ、噛み締め、勝みなみは、次なる目標を求めていた。
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